『むくげ通信』186号(2001年5月27日)

飛田 雄一
在日の残された課題、「参政権」vs「戦後補償」= 無関係

 外国人の選挙権に関する法案が国会に提出されている。この法案は公明党が連立与党を組むための条件としていたもので、公明党にとっては審議もしないで廃案ということになれば連立に加わった体面を失う。ところが自民党内では反対意見が多く、小泉首相自身もこの法案には否定的な発言をおこなっている。また民主党内部でも議員の3分の1は反対意見があるといわれている。「永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権の付与に関する法律案」と題するこの法案は前政権で政党の組み合わせが現在と異なる時に民主・保守両党が提出したものだが、字句が一字一句違わない同名の法案を後日公明党も提出している。連立の条件かつ民主・保守両党提出ということを考えればすぐに成立してもおかしくない法案であるが、そのとおりにならないのは日本社会がまだまだ排外的な考え方に染まっていることの表れである。
 一方、特別永住者の帰化要件を緩和する法案が自民党より提出され、この法案を成立させて選挙権法案を葬り去ろうという動きもでている(次頁条文参照、産経新聞2001.5.9,略)。この帰化の法案はすぐに成立して参政権法案は廃案になってしまうという見方や公明党の面子もあるので両法案を審議した上で両法案とも廃案ないしは継続審議にするという見方もでているが、よく分からない。
 去る4月27日に朝日新聞社主催で「定住外国人の選挙権に関するシンポジウム」が開催され私もパネラーのひとりとして参加した。5月6日付けの紙面で報道されたのでご覧になった方もおられると思う(下の記事参照、朝日新聞2001.5.6,略)。賛成派が、徐龍達桃山大学教授と私、反対派が、荒木和博拓殖大学助教授と洪祥進朝鮮人強制連行真相調査団事務局長である。新聞報道は紙面も限られていて、もっと喋ったのに‥‥と思うところがあるがそれはしかたがないことだろう。
 このシンポジウム参加を機会に参政権問題について改めて考えてみて一つの結論に達した。参政権問題は、在日朝鮮人に対して償うべき課題のひとつではなく、在日の歴史とはまったく関係のない純然たる地方自治の問題であるという結論だ。在日の歴史を根拠に参政権を要求するのではなく、地方自治体の住民であることの「証し」として地方参政権を与えよということである。
 今回の法案では選挙権のみで被選挙権が書かれていないこと、特別永住者(在日朝鮮人ら)および一般永住者のみが対象で一定期間以上日本に定住している外国人が含まれていないという問題点が指摘されている。これらの問題点のゆえに反対を唱える立場もあるが私は賛成の立場である。被選挙権も与えられるべきであると考えるが、とりあえず選挙権のみでのよしとする。一定期間以上の在留者の問題は、当初私も譲れない問題であると考えていた。が、4月21日神戸での参政権集会にお招きした近藤敦九州産業大学助教授の「一般永住の要件を緩和させることが重要であり、選挙権をもつ外国人の在留期間が決められているのはある場合には更新不許可の圧力を加えられる可能性もあるのでは」という発言を聞いて特別・一般永住者のみへの選挙権でよしとすることにした。近藤氏の講演は二重国籍問題等について非常に示唆に富むものであった。(近藤敦『外国人参政権と国籍』明石書店参照)
 朝日のシンポジウムで私が主張したのはだいたい以下のようなことである。

(1)参政権の問題は在日の歴史と無関係である。(新聞では「在日の歴史的な事情がどうのということではなく」と言ったことになっている‥‥)
(2)例えば外国人が市長に「私は市民ですか」と問えば「そのとおりだ」と答えるだろう。それは地方自治体の構成員だからである。それならその証拠として参政権を与えなければならない。自治体に参画できない「二級住民」があっていい訳はない。
(3)憲法の住民規定の国籍はないので(93条)、憲法改正せずとも参政権付与が可能である。
(4)地方議会議員の定数は選挙人名簿ではなく国勢調査の結果に基づいており、大阪市生野区のように4分の1が外国人である地域では、外国人を除外すればその分議員の数が減数になるという矛盾が生じている。
(5)先の国政選挙から在外日本人に国政選挙権が与えられたが地方自治選挙はできない。これは地方自治体構成員ではないということで、逆に考えると在日外国人は地方自治体構成員として自治体選挙に参加することができるとことになる。
(6)帰化して日本国籍を取得すれば参政権が生じるのは、参政権のない「二級国民」が存在しえないのであたりまえのことである。議論しているのは外国人の参政権問題である。帰化論は代替論になってないので、外国人参政権の不都合な点を具体的に指摘すべきだ。

 シンポジウムでは反対派のなかでも洪祥進氏は差別政策の撤廃が先決であって参政権は時期早尚であるという意見であり、荒木氏の在日朝鮮人は充分に特権を得ている、参政権を要求するのなら帰化すべきであるという意見とは違っていた。賛成派の中でも徐龍達氏と私は、その根拠とするところが違っていた。またフロアーから「帰化すればいい、国帰ればいい」という発言がでて、激しい論戦が闘われた場面もあった。最後のほうで「右のふたり(洪祥進氏と飛田)はいらん」と掃いてすてるような発言もあった。司会の若一光司氏は大変だったろうが、賛成派と反対派が公開の場で論議する場が必要であることを痛感した。また反対派は百地章日本大学教授の論を採用して、いまの憲法学会では一般的に受け入れられない外国人論を展開しているが、百地氏も含めた「日本国憲法と外国人参政権」をテーマにした公開討論会も必要であると思った。
 在日の歴史性と無関係に、地方自治体での外国人参政権を実現させることが必要であると同時に、まさに在日の歴史そのものから発する現在にいたるも未解決な戦後補償の実現が必要である。そのための努力を続けていきたいと思う。

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