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「SCM現場研修(生野・釜ケ崎)のあゆみ」

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(関西労働者伝道委員会編『イエスが渡すあなたへのバトン 関西労伝60年の歩み』(2017/5、かんよう出版)より。現在のSCM協力委員会委員長は、鈴木一弘さん。)

神戸学生青年センター理事長/SCM協力委員会主事 飛田雄一

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<SCM現場研修のはじまり>

 SCMは、Student Christian Movement、キリスト教学生運動。サプライ・チェーン・マネジメント(supply chain management、供給連鎖管理)ではない。戦前は、社会的キリスト教運動としてのSCMがあった。その歴史も学びたいと思っている。

 SCMそのものは、残念ながら戦後活発であったとは言えないが、一九五〇年代からSCM方策委員会が新しい活動を模索していたようだ。一九七〇年代にSCM協力委員会が、学生YMCA、聖公会SCA、早稲田奉仕園、神戸学生青年センター、名古屋学生センターなどによってつくられていたが、現場研修という新しい試みが、一九七九年よりスタートした。

 第1回(一九七九年三月)現場研修の「趣意書」は、以下のとおりである。

 かつてSCM指導者会議をつくり、教会形成と伝道にとりくんでいたSCM協力委員会は、七〇年代に入ってから、聖研ゼミナールやキリスト教セミナーと、試行錯誤をくりかえす中で、その方向性を探ってきた。キリスト教学生運動の関連団体の連絡と交流にとどまるのか。それとも、もうすこしやれるのか。

 ここに新たに現場研修を企画して、私達は将来への一つのステップを踏み出す。みんなに共通に理解されるはずの言葉の、その前提が失われ、あるいはプログラムが一人歩きし、また、アジアの私達にとっては、演繹的なドグマでしかない既存の進学への不信にみちた現況がある。その状況に対して、私たちはどこから言葉を発し、日々の対話と実践をつくっていくのか。

 そのことの行われる場を、私たちは「現場」と名づける。しかり、日常生活の中に「現場」どのように意識化していくか・

 そのための視座を互いに獲得していく契機をつくることが、この現場研修に目的である。現代社会の矛盾が鮮映に表れている「現場」、様々な学生・青年が、そこでの共通体験をふまえつつ言葉をブツケ合いさぐりあっていくときに、キリスト教学生運動が、また青年運動が、社会の中に、新たな展開をもって、着実に根を下ろしていくことを私たちは確信する。そのための第一歩を踏み出す。一九七九年二月一日 SCM協力委員会

 

 主催者の意気込みが感じられる文章である。日程は、三月二五日から三一日。初日はKCCで呉在植さんの記念講演も行われた。プログラムはその後五日間、生野・釜ケ崎に分かれて労働体験等を行い、最後の三日間は六甲YMCAでまとめの会が開かれた。募集人数は、生野・釜ケ崎各一〇名の二〇名。予想を超える反応があり、応募者は三〇名ほどあった。その中から提出していただいた作文等により二〇名を選考したことを覚えている。

 実行委員長は、当時神戸学生青年センター館長の小池基信、委員には、関本肇、小柳伸顕、李清一、佐藤与紀、武邦保、千葉宣義、中原真澄、飛田雄一が名を連ねている。

 全体で六泊七日というタイトなスケジュールだったが、研修生たちは熱心に参加した。最終日の六甲YMCAでのまとめの会では、シニアが退場を命じられて研修生だけの会も開かれた。

<学生・青年主体の現場研修へ>

 一九八〇年の二回目以降は、SCM協力委員会が主催者であることに変わりないが、研修生が次回現場研修の運営にかかわる体制ができてきた。第一回、第二回参加の梅崎浩二が数年実行委員長を務めた。

 二〇一六年三月の第三八回現場研修までの研修生の総数は五〇〇名を越えていると思う。そのすべてを紹介することはできないが、その一部を紹介する。(名簿の残っていない年もあり、特に恣意的に選択している訳でもありません。私の名前がないと怒らないでください。でも飛田hida@ksyc.jpまでご一報ください。)

 瀬口昌久、坪山和聖、梅崎浩二、角瀬栄、倉本由美子、香川博司、藤原羊子、李相ホ(かねへんに高)、恵大一郎、石居盾夫、川田靖之・千秋、横山潤、石井智恵美、後宮俊夫、西岡昌一郎、中西昌哉、伊藤史男、小笠原信実、望月智、木谷英文、今井牧夫、成田信義、西岡研介、吉沢託、李明生、黒瀬拓生、西中誠一郎、川上信、竹内富久恵、辻早苗、李サ(さんずいへんに少)羅、金一恵、東島勇人、川村直子、大前信一、朱文洪、片田孫朝日、西川幸作、中村香、村上恵依子、鍋島祥郎、清水のぞみ、森恭子、鍋谷美子、藤室玲治、福本拓、山本知恵、山田拓路、浅海由里子、今井牧夫、門戸陽子、宮城かおり、横山順一、内田美紀、バナジー ジョティ 千歳 サラフィーナ、村瀬義史、朴淳用。

 研修生が現場研修を運営していくという体制が組めない時期もあった。六泊七日という長い研修の期間を短縮する、生野・釜ケ崎を同時並行ではなくて、すべての研修生がすべて同じスケジュールで生野・釜ケ崎で学び、KCCでまとめの会を開くというスタイルに変わってきている。五名から一〇名の研修生が参加するという状況が長く続いたが、二〇一五年(第三七回)には、過去の研修生の口コミが広がって一五名の参加者があった。毎回、現場研修のなかで公開講演会が開かれているが、その講演者には、元研修生の叶信治、山田拓路らが登場している。

 生野・釜ケ崎の現場では、金成元、呉光現、薄田昇、小柳伸顕、大谷隆夫らが現場スタッフとして参加している。

 

 SCM現場研修は第一回を生野・釜ケ崎で開き、第二回を農村で開く計画もあった。現場研修には、課題をもってそこで働いている人との連携が重要である。重要であるという以上のその人がすべてであるといっても過言ではない。そういう現場であるからこそ現場研修が可能なのである。SCM現場研修は、生野・釜ケ崎という現場で、現場で働く人との協働で開催できているのである。

 当初、YMCA同盟におかれていたSCM協力委員会事務局は、その後、名古屋学生センター、神戸学生青年センターと移り現在に至っている。委員長は、第一回現場研修(一九七九年)の時は、関本肇、その後、李清一、野村潔、そして現在は金成元が担っている。

 先の元研修生のリストを見ても、SCM現場研修を体験した人々が現在もいい働きをされている。生野・釜ケ崎という現場で学んだ彼/彼女らが、新しい自分の現場を見いだしその現場で働いているのである。現場は、現場で働く人の姿は、新しい現場、新しい働き手を生み出す唯一の源であるかもしれない。

 

 

20143月の旅路の里での大谷隆夫氏のオリエンテーション