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青丘文庫研究会月報<239号> 2010年1月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

()神戸学生青年センター内  TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000

     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。=========================================================================

新年あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いします。

 2010年正月

      朝鮮近現代史研究会代表 水野直樹

      在日朝鮮人運動史研究会関西部会代表 飛田雄一

 

●青丘文庫研究会のご案内●

 ■第317回・在日朝鮮人運動史研究会関西部会

  1月10日(日)午後3〜5時

  「兵庫県・解放前の在日朝鮮人」(仮題) 高木伸夫

 ■朝鮮近現代史研究会 お休みです

 ※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫  TEL 078-371-3351

 

<巻頭エッセイ>

『北の詩人』再読  李景a

 

 松本清張の『北の詩人』と最初に出会ったのは、今からほぼ40年前のことである。教職に就いていたある日本人から一読を勧められ読み始めた。だが、本を読んだというより漢字を拾い読みしながら読み進んでいった。内容が内容だけに幾分、興奮気味でページをめくったのを鮮明に覚えている。

 それを、この度メモを取りながら「精読」した。現代史をどう捉えるか、歴史文献をはたして補えるか、そんなことを思いながら棚から取り出した。

 文豪清張の文章表現には教えられたところも多い。しかし、作品構成や内容にはいくつかの疑問をもった。植民地時代から朝鮮戦争に至る歴史の一コマが、推理小説として描かれている。歴史的事実が清張の問題意識と資料を突き合わせて見事に書かれており、実名が多数出てくるところにこの作品の魅力がある。ストーリーは詳細に、臨場感溢れる、軽快なテンポで展開する。肺結核に悩んでいた一人のプロレタリア文学者の組織活動とその困難さを実にリアルに表している。解放直後のアメリカ軍政時代の人間模様、世相、信託統治をめぐる国内外の情勢も、朝鮮共産党の意気軒昂としていたあたりも読者を魅了する。しかし、結末が突然にやってくる。アメリカ軍当局と秘密な関係を持っていた主人公の詩人林和が、周囲の活動家多数が逮捕されていく南での闘争を取りやめ、アメリカ軍の指令にしたがって1947年11月に38度線を越えたところで物語は突然に終わっている。そして、北朝鮮の粛清の裁判記録を付録に付け足している。それは1953年8月3日付け『労働新聞』の判決文である。林和は、南から北へ行った南労党幹部らとともに、国家転覆を企てた罪状で、またアメリカのスパイとして死刑に処せられた。

 小説は当初、『中央公論』に連載され(1963年1月〜64年3月)、1964年に単行本にまとめられた。当時は北朝鮮の権威が高く、この作品はある在日朝鮮人文学者が清張に資料を提供して完成されたものという。アメリカ軍の情報工作も切り込みがやや足りない印象をもつ。朝鮮戦争の最中に北朝鮮で始まった南労党派に対する粛正の嵐を金日成派の主張で図式化して物語が終わっているのは残念でならない。

 創作と歴史との落差は大きい。『北の詩人』は、時代の創作としては優れているのかもしれない。

 

269回朝鮮近現代史研究会(2009.11.8

紛争社会の空間変容-1945年前後の済州島を事例として-

高誠晩

(京都大学大学院文学研究科社会学専修博士後期課程、wikigarden@gmail.com)

 

1 概要

 1)この発表において発表者の視座は、20世紀の済州島を「紛争」と「紛争後」と分け、1945年前後の済州島を「紛争社会」として「占領と大量虐殺の連続」と認識し、その後の「紛争後社会」という観点として「過去清算」と「もう一つの紛争可能性」という側面で接近しようと考える。

 2)具体的には、@「紛争社会」という観点として、1945年前後の東アジアの体制変換をマクロな構図として認識した上で、済州島で強制された戦場形成と大量虐殺を空間的脈絡で把握し、A「紛争後社会」下で展開されている「過去清算」(占領遺跡の活用、大量虐殺の被害者に対する遺骸発掘)と「もう一つの紛争可能性」(海軍基地論争や「アルトル飛行場」敷地の返還論争)の事例を挙げる

2 紛争社会

 1) 占領空間(強制された戦場)

 (1) 占領駐屯軍がとらえた地政学的重要性

  @ 15年戦争末期の済州島は、第17方面軍による「決7号作戦」地域として再編。

 (2) 本土防衛のための島全域の軍事要塞化

  @ 駐屯占領軍による陣地構築は、海岸から山岳にいたるまで島全域にわたって構築されたことが特徴。  

 2) 大量虐殺空間

  (1) 戦後、戦前の軍事施設が変容

   @ 終戦、もう一つの占領:1945815日に対する植民地本国(終戦、敗戦)と被植民地(解放、光復)との間の認識のギャップが存在。しかし済州島の場合、駐屯占領軍の交替による「占領の連続」という構造が持続。

  (2) 占領空間の変容

   @ 住民の生活空間(戦争前)?強制された疎開と施設構築のための労務動員?軍事空間(戦争中)?米軍あるいは自国軍の軍事空間に転用されたり武装解除の過程で廃棄(戦争後)。廃棄されたまま放置され住民の生活圏と隔離されたまま現在まで存続。

  A 戦場から大量虐殺地に

  ‐この過程で、占領空間の一部が大量虐殺地や殺された死体の暗埋葬地として活用。

  B なぜ、彼らはあそこで人々を殺して、捨てたのか。

  ‐「旧済州邑の西の方に位している『ジョントル』と東方『別刀峯(ビョルドボン)』は、旧済州邑の中心部と近くの距離のみならず、住民たちの生活空間と離れている空間的特性のため、討伐隊の立場では短時間に人々を移動させて虐殺して隠蔽させるのに容易な地域だと判断したことだ」。

 C 隔離空間の再誕生

  ‐「人が死んだ所」「鬼が出る所」という空間言説の形成

 

3 紛争後社会

 1) 過去清算(占領空間・大量虐殺空間の整備・活用)

  (1)占領遺跡の活用

   @ 済州特別自治道は、「アルトル旧日本軍軍事飛行場」を中心として「済州平和大公園」と「環太平洋平和公園」の造成計画を発表。(20096月)

  (2)大量虐殺の被害者に対する遺骸発掘

   @ 金大中(キムデジュン)・盧武鉉(ノムヒョン)政権期、済州43事件に対する過去清算の一環として、済州43事件犠牲者に対する遺骸発掘調査が実施(2005年‐2009年)

   A 「別刀峯旧日本軍坑道陣地」に対する発掘調査結果、遺骸8具(完全7具・部分1具)と遺留品188点発掘・収拾(20071月‐3月)

   B 「ジョントル旧日本軍軍事飛行場(現、済州国際空港)」に対する発掘調査結果、遺骸380余具と遺留品2000余点を発掘・収拾。(20078月‐20096月)

   C 特に遺留品の場合、日本軍と韓国軍のものが同じ場所で発掘。

 2) もう一つの紛争可能性

  (1)海軍基地論争と「アルトル飛行場」敷地の返還論争

   @ アルトル飛行場敷地の返還を巡る中央政府(国務総理室・国防部・国土海洋部)と地方政府(済州特別自治道)との折衷。

   C 軍事空間が元々の住民生活空間に復元されるためには、また軍隊を配置しなければならない逆説的な状況が展開。

  (3)再び、戦場への発展可能性

   @ 最近地方政府が、「平和の島」と銘打って関連平和事業を展開しているが、それと同時に「MD体制」を念頭においた海軍基地が建設中である。島を見つめる一貫した軍事的視線の持続。

 

●金慶海さんを偲ぶ会

・日 時:2010131日(日)第一部<偲ぶ会>午後4時 第二部<懇親会>午後5

・会 場:いずれも神戸学生青年センター TEL 078-851-2760 http://ksyc.jp/map.html

  (阪急六甲下車徒歩3分、JR六甲道下車徒歩10分)

・参加費:第一部は無料。第二部は3000円。学生は半額です。

@出欠のお返事をFAX 078-821-5878または、e-mail hida@ksyc.jp で飛田までお願いします。欠席の方にはメッセージもいただければ幸いです。A金慶海さんの本、新聞スクラップ等は青丘文庫に寄贈されます。移転費用、ご遺族への謝礼を準備したいと思います。そのための募金もお願いします。郵便振替でご送金ください。郵便振替<01150−4−43074 飛田雄一>

 

<神戸学生青年センター朝鮮史セミナー・予告>

日時:20103月12日(金)午後7時

会場:神戸学生青年センター

テーマ:李朝白磁のふるさとを歩く

講師:山崎佑次さん(同名の書を洋泉社から出版されました)

参加費:600円(学生300円)

 

【今後の研究会の予定】

 2010年2月14日(日)、報告者未定。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 2月号以降は、足立龍枝、安致源、石黒由章、伊地知紀子、宇野田尚哉、太田修、小野容照、梶居佳広、高正子、斉藤正樹、坂本悠一、砂上昌一、高野昭雄、全淑美、塚崎昌之。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】

           みなさま新しい年をどのようにお迎えになられたでしょうか。神戸も例年より?寒い正月になっています。

           研究会会員の金慶海さん(兵庫朝鮮関係研究会)が昨年126日に亡くなられました。本当に残念です。上記のように偲ぶ会を開きます。ご都合のつく方はご出席ください。

(飛田雄一 hida@ksyc.jp

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