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青丘文庫研究会月報<237号> 2009年11月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

()神戸学生青年センター内  TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000

     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。=========================================================================

●青丘文庫研究会のご案内●

 ■第316回・在日朝鮮人運動史研究会関西部会

  12月13日(日)午後1〜3時

  「一九二○年代朝鮮人女性における「内鮮融和」

−金朴春の思想と行 動をめぐって―」 杉本弘幸

 ■第270回・朝鮮近現代史研究会

  12月13日(日)午後3〜5時

  「韓国の国籍法・戸籍法」  佐野通夫

 ※終了後、忘年会をひらきます。いつもの「和民」です。

 ※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫  TEL 078-371-3351

 

<巻頭エッセイ>

留学経験者アンケート      吉川絢子

 

 先日、韓国への語学留学と交換留学を終えて約1年半ぶりに日本へ帰ってきた。韓国から送った荷物の整理も終わり、これで修士論文に集中できる(であろう)と思っていた矢先、留学生課の担当者であるオカダさんから留学経験者アンケートに答えてほしいとのメールがきた。どうせ大した質問などしてこないだろうと高をくくって、メールに添付されたアンケートを開いてみると、意外にも難問だらけであった。留学先や留学期間などはまだしも、留学を決めた理由、保険の選び方、留学先に持っていってよかったと思うもの、持っていかなくてもよかったと思うもの、持っていった方がよかったと思うもの、留学先で困ったこと、後輩へのアドバイスなどについてはなかなか苦戦した。困ったなぁと思いつつ、でも早く出さないとオカダさんが困ってしまうかもしれないなぁなどと余計な心配をし、結局メール受信から約1週間後、アンケートに回答を記入し返信した。翌日、オカダさんから「早速のご回答、どうもありがとうございます。」とのメールが届き、アンケートの件は落着したのだが、今考えてみると、もう少し今後の留学生に役立つような回答をすべきではなかったかという気がしないでもない。そこでこのような反省を踏まえ、留学経験者アンケート(改訂版)を独自に作成し、オカダさんには伝えられなかった留学経験者の声をお届けするとともに、青丘文庫会報の巻頭エッセイに代えたいと思う。スペースの関係上、@留学先に持っていかなくてもよかったと思うもの、A留学先で困ったこと、B後輩へのアドバイスの3点に限定して、私なりの見解を述べたいと思う。

 

1.留学先に持っていかなくてもよかったと思うもの

朝鮮総督府『朝鮮語辞典』

小学館の『ポケットプログレッシブ韓日日韓辞典』だけでは不安だったので持って行きましたが、どうやら日常生活レベルの会話ではここまで大きな辞書は必要ないようです。

 

2.留学先で困ったこと

星の数ほどありますが、なかでも講義中に教授から「ヨシカワ嬢(ヤン)」と指名され、日本の法学教育などについて質問されたのには参りました。分かりませんと正直に答えればいいものを、見栄を張り、出てもいない講義に出て、あたかも真面目に勉強したかのように答えてしまいました。(先生ごめんなさい…)

 

3.後輩へのアドバイス

韓国の大学は山のなかにあると思っていたほうがいいかもしれません。夏にキャンパスのあちこちに出没する蚊のタチの悪さには参ります。日本から「ムヒ」を持参するか、蚊に刺される前に薬局で「ムルパス」を購入することをおすすめします。

 

314回在日朝鮮人運動史研究会(20091011

戦前期大阪における朝鮮人の民族信仰・朝鮮寺と宗教政策

―朝鮮仏教可否問題から「敬神崇祖」の神社参拝へ―   塚ア昌之

 

 1930年代に入ると、在阪朝鮮人たちの定住傾向が拡大し、信仰問題が浮上してくる。差別と苦しい生活の中での現世利益を得、かつ、異境で死んでいく者たちへの慰霊を求めるようになった。現世利益と祖先供養は朝鮮民衆が巫俗的な信仰、つまりクッで求めることでもあった。クッは朝鮮では村の堂(タン)等で行われたが、日本社会では堂を設けることは容易ではなく、「朝鮮寺」という形がとられるようになった。

19325月、朝鮮人たちが多く住む大阪市東淀川区山口町に最初の「朝鮮寺」が設けられたが、「合法」的な寺ではなかった。1923年に文部省が定めた「神仏道教会所規則」では、政府の手によって公認されていた教宗派に所属することが、教会所を認める条件だった。

そこで、「朝鮮寺」を朝鮮仏教の寺として認可を得ようとする動きが生まれた。朝鮮では、朝鮮王朝時代に山の中に残された30本山を中心に寺院を「朝鮮仏教禅教両宗」(後の曹渓宗)として、総督府がまとめて認可していた。当初、大阪府は好意的に認可する方向性で動いたが、文部省は正式には認めず、当面は「類似宗教」扱いをして放任するように指導した。「類似宗教」であれば、治安警察の取締りの対象とされ、いつでも弾圧をすることができた。そのために、「朝鮮寺」は三つの方向で活動するようになる。一つは、葬儀・埋葬などの不十分点は我慢しつつ、非合法・あいまいな存在のまま教会所類似施設などを作ることであった。初期の「朝鮮寺」の多くはこのスタイルであった。一つは日本人僧侶の協力を得て、日本寺院の廃寺等を利用させてもらうが、名義的には日本寺院として活動を行うという「抜け穴」的な方法を取ることであった。一つは日本の宗派の下に入り、読経など仏教的な要素を一定加味しつつ、「合法的」な形式を整えることであった。この方式では巫俗的な行為をカムフラージュしやすいためか、加持祈祷に重きを置く真言宗系の宗派が選ばれ、また日本側の宗派も自らの宗勢拡大のために協力姿勢をとった。

1935年に国体明徴声明が出ると、朝鮮人に対する「同化」政策が二つの方向性で強まっていく。一つは「近代化」であり、巫俗の廃止もこれに含まれた。これは朝鮮人の信仰の中の現世利益的な側面を否定することにつながった。もう一つは「皇民化」であり、ことに1937年に日中全面戦争が始まるとその圧力が強まった。朝鮮人の信仰の中のもう一つの要素である先祖崇拝を逆に利用して、それを天皇崇拝に結びつけていこうという動きが作られていった。先祖崇拝と天皇崇拝、つまり、「敬神崇祖」は直ちに結びつくものではない。その仲立ちとなるものが必要だった。朝鮮では「檀君神話」が用いられたが、大阪では古代の天皇国家の発展に「尽くした」百済王氏と王仁がクローズアップされた。彼らを神社に祀り、神格化することによって、二つを結びつけた「敬神崇祖」の運動を起こそうとしたが、成功したとはいえなかった。

193512月の第二次大本教事件以来、朝鮮総督府は「類似宗教」を邪教として弾圧を始めた。多くの「類似宗教」は日本の宗派の下に入っていった。日本でもあいまいな形で放任されていた布教所等は閉鎖を強要されるか、もしくは日本宗派の下に入っていかざるをえなくなった。1942年の『社会運動の状況』では、「朝鮮寺」はほとんどが日本の宗派の下の布教所等になっている。「朝鮮寺」は表面上、国策に従順なポーズを取らざるを得なくなり、「皇軍の武運長久」などを祈るようになるが、陰では巫俗的な儀式は生き残っていた。

現在も生駒山麓をはじめとして多くの「朝鮮寺」が存在するが、多くは仏教寺院の側面と巫俗儀礼の側面を共有しており、日本の宗派、特に真言宗系の看板を掲げている寺も多い。朝鮮にはない在日朝鮮人独特の信仰形式である。この特徴を作ったのは、戦前の日本側の宗教政策と、その中で巧みに巫俗儀礼を残していこうとした朝鮮人たちの主体的な営みであったといえよう。

 

在日朝鮮人運動史研究会編『在日朝鮮人史研究』39号 発売中

(2009年10月、A5、225頁、緑陰書房発行、2520円)

※特価2000円で販売します。購入希望者は、郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>で送料160円とあわせて、2160円を送金ください。

<目次>

福音印刷合資会社と在日朝鮮人留学生の出版史(一九一四〜一九二二) 小野 容照

大阪−済州島航路の経営と済州島民族資本

 −「済友社」・「済州島汽船」・「企業同盟」− 塚崎 昌之

戦前・戦時下における石川県の在日朝鮮人の諸相

 −人口移動・内鮮融和団体・朝鮮飴売り−  秒上 昌一

常磐炭田朝鮮人戦時動員被害者と遺族からの聞き取り調査 瀧田 光司

「解放」徳後の福岡県における朝鮮人「帰還」 鈴木 久美

神奈川における在日朝鮮人の民族教育―一九四五〜四九年を中心に― 今里 幸子

<資料紹介>『外国人登録関係』 金 浩

 

<神戸学生青年センター朝鮮史セミナー・予告>

日時:20103月12日(金)午後7時

会場:神戸学生青年センター

テーマ:李朝白磁のふるさとを歩く

講師:山崎佑次さん(同名の書を洋泉社から出版されました)

参加費:600円(学生300円)

 

【今後の研究会の予定】

 2010年1月9日、在日(高木伸夫)、近現代史(未定)。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

 2010年1月号以降は、李景a、足立龍枝、安致源、石黒由章、伊地知紀子、宇野田尚哉、太田修、小野容照、梶居佳広、金慶海、高正子、斉藤正樹、坂本悠一、砂上昌一、高野昭雄、全淑美、塚崎昌之。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】

           はや、師走となりました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

           師走に入ってからでは少々?しらけますが、2009年度の青丘文庫研究会会員証ができました。会員のみなさまには本通信に同封いたします。年額3000円の月報購読料をお支払いいただいた方で「会員証必要」と意思表示された方にお送りします。ただし、学生会員でメールニュースのみでOK、印刷物月報不要かつ「会員証必要」というという方には例外として会員証を発行します。少々はやいですが、よいお年を・・・。(飛田雄一)

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