======================================================================== 青丘文庫研究会月報<212号> 2007年4月1日 発行:青丘文庫研究会 〒657-0064
神戸市灘区山田町3-1-1 (財)神戸学生青年センター内 TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878 http://www.ksyc.jp/sb/ e-mail hida@ksyc.jp @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一) A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹) 郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000円 ※ 他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。 ========================================================================= ●青丘文庫研究会のご案内● ● 済州島に通いつづけて?生きられる歴史に出会う 伊地知紀子(愛媛大学) 桜の季節がやってきた。毎年この時期になると在日杏源里親睦会から、大阪城公園でのお花見のお知らせをいただく。ありがたいことである。杏源里は、私が13年間通いつづけている済州島の村だ。花見には、同じ村出身といえども在日歴の異なるさまざまな人びとが集まり、互いの近況や家族親戚の様子、世間話に花を咲かせる。大阪城公園でのお花見でお話ししたサムチュン(済州島では村のおじさん・おばさんをこう呼ぶ)と、済州島の村で再会することもある。解放後62年を経て生活の本拠が日本になっていても、冠婚葬祭のために、畑や墓の管理や整理の必要から、あるいは親しんだ風景や馴染みの顔を思い浮かべて済州島に向かう人たちがいる。こうした人びとの思いとは別に、植民地期に済州島で生まれ育った日本人のおじいさん・おばあさんから折にふれて当時のお話を伺うなかにも、済州島への思いは表れるが、それについてはまた槁を改めたい。 済州島から日本へ来る人びとの流れも続いている。村に通いはじめた頃は、「関空を作った」というお兄さんや鶴橋の食堂で働いたお姉さんの話を聞いたものだ。しかし、最近は、村の人びとの高齢化も進み日本での働き口も減り円安もあり、日本の都市圏で働いた話はあまり聞かなくなってきた。そんななか、済州島ならではという姿で働いている人びとの流れが続いている。海女である。済州島ではチャムスという。 最近、済州島と関西の友人たちとともに、日韓の海域生活者としての海女について共同研究を始める機会に恵まれた。日韓の海女に関わる地域に出かけ人びとに会う。昨年は、40年ほどまえから済州島出身の人が海女に携わる近畿圏の漁村に出かけた。坂の上から見える女性の歩き姿は紛れもなく済州島の人だ、そう確信して降りて行き声をかけたらやっぱりそうだ。彼女が仲間4人と住む一軒家に連れていってもらう。「娘を一人もらってきたよ?」と彼女はいいながら家に入っていった。済州島の言葉を話す人間は懐かしいと海女たちは盛り上がってくれる。私が済州島に通っている話をするなかで、杏源里の他に通っているもう一つの村の名前を挙げた。すると、海女のなかで一番若い女性は、私がその村でお世話になっているお兄さんと中学校の同級生であるという。場の雰囲気はより和み話はさらに盛り上がった。その海では済州島の人が好んで食するチョンガク(日本ではミル<海松>と呼ばれ昔は食されていた)が少し採れるのだが、採れたチョンガクは済州島の人びとが多く住む生野区へも運ばれる。この地域で済州島の海女が潜り続ける背景には、日朝の歴史に加え日本の漁村の過疎化・高齢化と私たちの食生活・食感覚の画一化が関わっている。 大阪あたりでも海女をしていた/している人びとに会った。そのなかで、杏源里出身の88歳になるおばあさんに偶然出会った。20歳で村を出てきた彼女は、私の口から済州島や日本にいる村の人の名前を聞くたびに、華やいだ表情になる。彼女はもう一度村に行きたいが身体に自信がない、村に一人いる妹に会いたいと語った。私は杏源里に行ったときにその妹さんを訪ねていった。76歳になる妹さんは、一人で飛行機には乗れないという。昨年12月末、歴史や文化とともに朝鮮語を学ぶテキスト作成の資料収集のために、私は同僚二人と済州島に行った。そしてその帰り、妹さんも一緒に飛行機に乗ることになった。またまた偶然、所用で済州島に帰省されていた京都創成大の辛先生ご夫妻も同じ関空行きの飛行機だというので計6人の団体となり、妹さんの姉へのお土産は山のようでその他の荷物も合わせると半端ではない量となった。 ガチガチに緊張した妹さんが私の右側に座り、左側には男の子が一人座っていた。胸に一人旅を示すKALのカードを下げた、その子に話しかけてみると小学校6年生だという。冬休みなので大阪に住む外三寸のところに一人で遊びに行くそうだ。「この子一人で大阪に行くんだって」とだけ妹さんにいうと、彼女は「お母さんを探していくんだよ、チッチ」と確信したようにつぶやいた。その時男の子と妹さんの間に座った私は、まるで異なる時間と空間が交錯するなかにいるような気分になった。関西国際空港に到着すると、出口には息子とともに88歳の姉が迎えにきている。出会った瞬間、互いが互いをじっと見つめ距離をとり、「この人だろうか」と訝しげな表情を浮かべた。いきなり抱き合うわけでもなく、笑い合うわけでもなく、私が送った最近の妹の写真をしっかり握りしめていた姉は毛糸の帽子をパッと脱ぎ「年とってるからわからんやろうが、アイゴー」と檄を飛ばす。そこで手を取り合い笑い合う二人。どこででも見かける一場面かもしれない。けれども私はその場で、植民地時代から現代まで生きられてきた済州島と大阪の歴史のある瞬間に居合わせたような感覚のなかにいた。 済州島に通いつづけるなかで、いろんな場面に立ち会う機会に出会えた。そのいずれもが大きな歴史の舞台からは些細な出来事となる。けれども私は、こうした姿から日朝の歴史を生きる人びとの生に学んでいきたい。 第246回朝鮮近現代史研究会 2007年1月14日 梶山コレクションにある朝鮮関係資料 金慶海 (PDFファイル をご覧ください) 【今後の研究会の予定】 5月13日(日)在日・杉本弘幸、近現代史・水野直樹。6月10日は下記講演会です。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 【月報の巻頭エッセーの予定】 5月号以降は、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 青丘文庫設立35周年/市立図書館移転10周年 記念講演会 ■日時:2007年6月10日(日)午後2〜5時 ■会場:青丘文庫 ■講演:姜在彦さん、水野直樹さん ■参加費:無料 ■主催:青丘文庫研究会、神戸学生青年センター ――――――――――――――――――――――――――――――――― 【編集後記】 ・ 六甲近辺は桜が満開になったと思ったら、寒くなりました。花冷えです。それの結構寒いのです。みなさまのところではいかがでしょうか。4月号の月報をお届けします。 ・ 青丘文庫は創立が1972年、市立図書館に移管されたのが1997年です。そこで上のような記念講演会を開催します。是非ご参加ください。 飛田雄一 hida@ksyc.jp |