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青丘文庫研究会月報<211号> 2007年3月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

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     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。

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●青丘文庫研究会のご案内● 

■第247回朝鮮近現代史研究会

3月11日(日)午後1時〜3時

 「麗順事件の勃発とその影響」 李景a

■第290回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

3月11日(日)午後3時〜5時

 「戦前期京都市上賀茂地区における朝鮮人」 高野昭雄

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

  神戸市中央区楠町7-2-1 TEL 078-371-3351

  (地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10)

形式的平等と形式的不平等―韓国の戸主制廃止運動に思う

山地久美子(天理大学非常勤講師)

 「日本には戸主制が無いというのは本当ですか?」

2002年から翌年にかけて韓国で戸主制廃止運動を調査していた際に、この言葉を何度問いかけられたことだろうか。日本の戸籍法は1871年に制定された。その後、明治民法(1898年)によって戸主は戸主権と呼ばれる絶対的な権力を有していたと言われている。戸主制は戦後(1948年)に制定された新民法で廃止されている。

 韓国の戸籍法は、日本植民地時代の民籍法(1909年)と朝鮮戸籍令(1923年)に由来する。1960年に制定された新たな民法では、戸籍法、戸主制はほとんどそのまま踏襲された。1989年の民法改正時には戸主に附帯していた権利と継承者への相続義務が廃止されたものの、戸主制そのものは維持された。その際、男女平等の流れを受けて、それまで男性しか継承できなかった戸主が女性も継承できるようになった。しかし、実際には、第984条「戸主継承の順位」において、厳密に規定された継承順位(1.息子→2.男の孫→3.娘→4.妻→5.母→6.息子の嫁)により男性優先が規定されている。

 200523日、男性継承の優先が規定されている韓国の戸主制は憲法の定める婚姻と家族生活で個人の尊厳と両性の平等に違反するという決定がなされた。この「憲法不合致決定」ニュースは韓国ではもちろん、日本の新聞でも一面記事に取り上げられた。同年32日には、戸主制の廃止や親養子制(完全養子制)、同姓同本禁婚規定(1999年失効)の削除などが盛り込まれた民法改正案が国会を通過した。これによって戸主の規定をはじめ、婚姻の際に女性が男性の家に入籍する「夫家入籍」(第826条)、子どもは必ず父の姓を継いで父の戸籍に入いる「父家入籍」(第781条)についても姿を消すことになる。

 韓国の戸主制廃止運動の歴史は長く半世紀以上に及ぶ。その運動が「憲法不合致決定」という形で終止符を打ったわけである。戸主制の「憲法不合致決定」は「戸主制廃止のための市民連帯」を中心とした一連の憲法訴願運動が結びついたものである。この運動は1990年代に入り、男児選好が高じた女児堕胎によって顕著になった出生時の男女性比率不均衡が問題となり展開された。運動としては1997年の同姓同本禁婚制に対する「憲法不合致決定」の際の憲法訴願運動の方法を踏襲し、弁護士、法律学者など多くの支援者が女性運動家、人権運動家と共に訴訟に係わっている。

 2008年から施行される韓国の民法では、戸籍は家族単位から個人単位の編製となる予定で、法務省と大法院で編製方法について議論されている。その一方で、現在も儒林を初めとした戸主制廃止・個人単位の編製に対する反対論者の声も大きい。

 日本では戸籍筆頭主が存在し、家族単位で編製されている戸籍制度に異議を唱え、個人単位の戸籍の必要性を求める声があっても運動までには至っていない。韓国では、自国の戸主制廃止運動と並んで日本の夫婦別姓運動は女性の権益を目指した法律改正運動として認識されていた。日本の民法は婚姻時の夫婦の同一姓の選択(第750条)において男女差別がないとされる。しかし、それはあくまでも法律上のことであり、実際には婚姻時に女性の9割以上が男性の戸籍に入り、男性の姓を名乗るとされる。それらを指して「形式的平等」と呼ぶこともある。1980年代には姓の選択の自由を求める夫婦別姓運動が起こり、法制審議会が1996年に「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申したにもかかわらず、選択的夫婦別姓関連法案は10年以上経った現在も国会審議に入っていない。日本では昨年、内閣府が3度目の「家族法制に関する世論調査」を行ったが、マスメディアなどでは賛否半々という意見とともに夫婦別姓の賛成派が減少したという意見もある。また、親の姓が子どもに与える影響についての議論もある。韓国の戸主制廃止運動と日本の夫婦別姓運動において共通であるのは、女性の権益の確保についての議論よりもむしろ、子どもの福利についての議論となってしまうことである。

 韓国の民法は「夫家入籍」を初めとした形式的不平等な法律である。しかし、それらの条項も戸主制の「憲法不合致決定」を受け民法から削除される。今後は家族単位の戸籍制度がなくなり、家族のあり方に変化が現れることも予測されている。韓国の戸主制廃止運動の結実を見た時に、日本の夫婦別姓運動が今後どのように展開できるのか、考えさせられる。

 

245回朝鮮近現代史研究会(20061224日)

『歴史物語朝鮮半島』の仕事のなかで考えたこと  姜在彦

 歴史が専門でもなかった私が歴史を書くようになったのは、三品彰英の『朝鮮史概説』を読んで、これは何とかしなければと思ったからです。1952年に戦後版が出ていますが、戦前とまったく変わらない他律性史観、停滞史観そのままの記述です。他律性史観は、朝鮮の歴史は周辺の強国に他律的に振り回された歴史で自主性がないというものであり、停滞史観は、朝鮮はもちろん中国をも含めたアジア的停滞性理論によるもので、内在的な発展がないというものです。いずれも日本の朝鮮植民地支配を合理化する歴史観でした。しかし当時は、この本以外に朝鮮の通史をコンパクトにまとめた本はなかったのです。

 『歴史物語朝鮮半島』を書く際にも、手頃の分量で分かりやすくまとめることに腐心しました。分量の点では、先の『朝鮮史概説』が参考になりました。初めて読む人には、分量が多く分厚くては困るだろうということで、分量を増やさないために各時代の分量配分を心掛けました。分量を考えるとすべての史実を詰め込むわけにはいきませんから、資料を調べ、構想を練るのに相当時間がかかるんです。そこで焦点を絞って、史実をたくさん詰め込むことよりも、それぞれの時代のイメージをどう出すかを苦心しました。

 そのほか、内容が紋切り型の教科書的にならないこと、日本史の基本知識があることを前提にして、日本と朝鮮の年代表を並列して掲載することで、朝鮮史のそれぞれの時代が、日本のどに時代にあたるかを知ってもらうことなどに配慮しました。手頃な入門書として受け取ってもらえれば、いちおう成功したことになるでしょう。

 『歴史物語朝鮮半島』より先に、同じ朝日選書で『朝鮮儒教の二千年』を出しました。私は70歳になって儒教史の研究を始めましたが、その結実がこの本です。なぜ朝鮮儒教史の研究をしたのかと言えば、韓国における儒教史に対する疑問があったからです。

 たとえば、宋時烈に対する評価があります。韓国の儒教界では宋時烈を「朱子」に並ぶ「宋子」としてあがめてきましたが、私はこうした評価に疑問を持っています。明が清によって滅ぼされた後、朝鮮では清を夷狄視し、滅びた明を慕う「小中華」思想が風靡するようになり、女真族に対する人種的偏見に凝り固まった「北伐論」が横行しました。これは、明清交代期に中国に対する現実的対応を誤らせ、二度にわたる「胡乱」を自ら招く結果となった無謀かつ危険な思想でしたが、この思想のバックボーンになった西人派の領袖が宋時烈です。

 だから、宋時烈は朝鮮の歴史にとって決して高い評価はできないのですが、韓国では違います。『歴史物語朝鮮半島』の儒教史に関する部分は、この『朝鮮儒教の二千年』を下敷きにして書いています。

 『歴史物語朝鮮半島』でもう一つ留意した点を付け加えると、朝鮮史を一国中心主義ではなく、周辺の諸国の動向との関連の中で朝鮮がどう対応していったのか、それに相当のスペースを割きました。一国中心主義になるとどうしても自画自賛に陥りやすい。これを戒めたつもりです。(まとめ/堀内稔)

 

<案内>

山陰線工事と朝鮮人労働者の足跡を訪ねる旅

    ―餘部鉄橋・久谷招魂碑・桃観トンネルほか―

 ■日 時:2007年3月17日(土)〜18日(日)

 ■集合等:8:40三宮・観光バスステーション集合

       ※集合場所が変更になりました。サンパルビル北東の広場です。

      9:00出発

 ■訪問先:久谷八幡神社招魂碑、居組「追悼碑」、西光寺レンガ塀、桃観トンネル、

      餘部鉄橋ほか

 ■宿泊所:但馬公園牧場「まきばの宿」

 ■募集人員:35名

 ■参加費:15,000円(一泊二食、昼食は各自負担)

 ■主催:神戸学生青年センター&兵庫朝鮮関係研究会&兵庫在日外国人教育研究協議会

 ■申込み先:神戸学生青年センター(担当・飛田雄一、ひだ ゆういち)

 

【今後の研究会の予定】

 4月8日(日)在日・未定、近現代史・河原典史、5月13日(日)在日・杉本弘幸、近現代史・水野直樹。研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

【月報の巻頭エッセーの予定】

 4月号以降は、伊地知紀子、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

【編集後記】

           寒のもどりのようなここ2,3日ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。朝鮮語で寒のもどりと同じ言葉に、「寒さが(春の)花を恨めしく思う」というのがあるそうです。なかなかいいですね。

           2月号の月報はハガキ通信にさせていただきました。また1月号の月報210号は発行日を200711日とするところを2006121日としてしまいました。申し訳ありません。

           青丘文庫は1972年に故韓皙曦先生が自宅に作られたのが始まりです。10年前の19976月に現在の神戸市立中央図書館に移管されました。青丘文庫のホームページに水野直樹さんが神戸市立図書館報 『書燈』No.261(1997年11月)に書いた文章を掲載しています。ご参照ください。http://www.ksyc.jp/sb/iware.html

              青丘文庫には研究会メンバーが寄贈した新しい本も加わっています。また是非機会をみつけてご来館ください。           飛田雄一 hida@ksyc.jp

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