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青丘文庫研究会月報<205号> 2006年6月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

()神戸学生青年センター内  TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000

     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。

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●青丘文庫研究会のご案内●

■第241回朝鮮近現代史研究会

6月11日(日)午後1時〜3時

『済州島における日本軍の本土決戦準備』

  ―「青丘学術論集」論文以後の判明点を中心に―

              塚崎昌之

■第283回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

5月14日(日)午後3時〜5時

日本植民地時代にブラジルへ移住した朝鮮人

         全淑美

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

  神戸市中央区楠町7-2-1 TEL 078-371-3351(地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10)

 

<巻頭エッセー>

??(ポラム) 福井 譲

 ある後輩が,この4月から留学することとなった。今日では地域研究に携わる者にとり,対象地域の言語を習得することは当然の条件として見なされている。言語はその文化の価値観を反映するものであるし,そもそもその地域に住む人々とコミュニケーションを取ることができないのであれば,何のための地域研究なのかも分からない。さらに社会は「外」「内」いずれから観察するのかによって,その「見方」も異なってくる。いかに国際化が進んでいるとはいえ,長期滞在できる機会はそうあるものではない。だからこそ,死なない程度に苦労をし,言葉も含め多くを学ぶことができるのであれば,それこそ「一生の宝」となるだろう。

 留学当初,私は韓国語が全く話せず,簡単な挨拶表現を多少知っている程度だった。入居した寮には日本人が多くおり,困った際に頼ることはできたものの,しかしいつまでもそれも続ける訳にはいかない。当然のことながら,最終的には「自立」せねばならないのだ。

 ある時,洗濯をするため寮内の台所へと向かった。各階の台所には,全自動の洗濯機が2台設置されていたのである。それまでは特に気にすることもなく,洗濯物を放り込んで「??〔電源〕」ON→あとは自動,であったものが,その時だけは何ゆえか不具合で上手くいかない。何度繰り返してもすぐに停止して,「???」という表示部分に電気(警告灯)がついてしまうのである。困り果てて,部屋から辞書を手に取り舞い戻り,洗濯機の前でその都度調べながら対応する破目となった。

 恥ずかしいことだがその当時,それまで日本で全自動洗濯機をほとんど使用したことがなかったため,全自動洗濯機の「理屈」を今一度把握できていなかった。ようやく「???〔不均衡〕」の漢字は分かったものの,その意味も今一度よく分からない(要するに洗濯槽内の洗濯物が偏っているため,均衡な状態で回転することができない,ということ)。そもそも日本語思考の次元において,「不均衡」=「寄っている」と解釈できていなかったのである。

 何かをいじっているうち,いつもの「??〔標準〕」からメニューが変わってしまった。何度も押しているうち,途中で点灯する「??」「??」がそれぞれ「洗濯」「脱水」であることは,辞書で知ることはできた。ところが,その途中に現れる「??」,(当然ながら)辞書に載っていないため,どうしても分からない。洗濯槽内には適量に給水されず,ボタンを操作しても「??」に戻すことができない。

 ついに諦めた。半分濡れた洗濯物を抱えて,部屋に戻っていった。洗濯機すらマトモに扱えない空しさと,単語が辞書に載っていないことへのやり場ない怒り,そしてこんなことすら分からずに今後やっていけるのかという絶望感に近い不安。洗面所で手洗いしながら,そんなことをひたすら考えていた。

 韓国語(と韓国の洗濯機)をご存知の方ならお分かりの通り,上記の「??」は「???」(すすぐ)の名詞形「すすぎ」である。活用の一種であるため,当然そのままでは辞書には載っていない(ちなみに,日本の洗濯機を思い起こせば想定すれば「洗濯/洗い」「濯ぎ」「脱水」と考え付きそうなものだが,先述の通り,当時は全自動洗濯機に疎かった)。

 今となっては簡単なこと,「よき思い出」で済む程度のものである。しかし,「言いたいことが伝えられない」「聞くことが全く理解できない」「あらゆるものを辞書で調べながら過ごす」という「絶望的環境」に置かれた時の心境は,経験した者でしか理解できないだろう。

 時折,日本語に不自由している留学生を見かけると,ふと当時の自分を思い出してしまう。大変だろうが,その分,得るものも大きいのだ。

 

238回朝鮮近現代史研究会(2006212日)

書評/韓国女性ホットライン連合編、山下英愛訳

『韓国女性人権運動史』2004年、明石書店    堀添伸一郎

 本書は、1999年に韓国で出版された『?????????』(1999??????

???? ?????? ??)の日本語訳である。女性人権運動に関して性暴力問題、性売買問題、従軍慰安婦問題、レズビアン人権運動、障害女性人権運動、国際法における女性人権について論じている。執筆に際し、担当者が同じ分野における活動家と綿密な議論を幾度も繰り返し激論の末、漸く上梓された。取り扱うテーマの根深さから執筆者が苦悩し、担当者が何度も変わるなど本書が世に出るまでの過程は容易なものではなかった。

 何故、執筆者は苦悩し、何度も筆を投げようとしたのか。女性人権問題は問題の一つ一つが被害者にとって重大であり、見落とすことは許されない。こうした重責と綿密な検証は心労を伴う。執筆に際し、過去の事件で性暴力加害者の実名も記された。加害者側から名誉毀損など告訴の可能性もあるという緊張感を筆者は持ちつづけねばならなかったであろう。

 男性優位の韓国社会に対して隷属が当然視されている女性たちの抵抗が本書の各章に論じられている。抵抗から問題解決をみても、次なる課題解決へと終る事はない。女性人権運動は決して終焉を迎える事はないのである。

 本書は女性人権運動の中でも未開拓とされるレズビアン人権運動や、障害女性人権運動を取り上げている。それは、女性人権運動の発展と向上のためには、国家、民族を超えた連帯が必要であると判断したからである。まず、国内の女性人権問題において顧みられなかった問題を扱い、その当事者との連帯があってこそ、女性人権運動が広がりをもつと考えられたからである。狭隘な精神は感じられない。

 本書のテーマ、女性人権運動とあるように本書は様々な問題を取り上げている。韓国社会では同性愛者は儒教的概念から唾棄される存在であるという。障害者も軍事優先文化では地位は低いものとされている。活動家は、底辺にあり、社会から排除されている女性を取り巻く問題を忘れてはならず、あらゆる女性人権問題を取り上げねばならないと考えている。女性人権運動のため必要とされる連帯のために、従来、禁忌とされてきた問題を論じれば、必然的に社会との激しい摩擦が生じる。覚悟を踏まえた上で執筆者は執筆している。読者は執筆者の苦悩と緊張感を感じざるを得なくなる。これは本書の骨頂であろう。

 

青丘文庫新着図書(黒田慶一さんが寄贈してくださったものです)

1.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第1巻第1号、1979.1

2.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第2巻第1号、1980.12

3.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第3巻第1号、1981.12

4.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第4巻第1号、1982.12

5.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第5巻第1号、1983.12

6.           韓国科学史学会 『韓国科学史学会誌』第6巻第1号、1984.12

7.           東亞大学校博物館『密陽古法里壁画墓』、2002

8.           (財)蔚山文化財研究院『蔚山栢川里遺跡』、2002

9.           (財)蔚山文化財研究院『蔚山上次里遺跡』、2003

10.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山新■(山+見)洞黄土田遺跡』、2003

11.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山泗淵里ノムネ遺跡』、2003

12.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山羅士里遺跡』、2003

13.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山聖安洞遺跡』、2003

14.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山新亭洞遺跡』、2003

15.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山鉢里遺跡』、2003

16.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山華亭洞遺跡』、2004

17.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山校洞里456遺跡』、2004

18.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山孝門洞竹田谷遺跡・蔚山孝門洞遺跡』、2004

19.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山蓮岩洞山城遺跡』、2004

20.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山川前里チンヒョン・アプゴル遺跡』、2005

21.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山屈火里長剣遺跡』T、2005

22.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山梅谷洞遺跡−T地区』、2005

23.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山梅谷洞遺跡−U地区』、2005

24.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山梅谷洞遺跡−V地区』、2005

25.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山香山里青龍遺跡』、2005

26.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山芳基里286遺跡』、2005

27.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山川上里平川遺跡(本文)』、2005

28.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山川上里平川遺跡(図版)』、2005

29.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山玉洞遺跡』、2005

30.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山山下洞山陰遺跡』、2005

31.         (財)蔚山文化財研究院『蔚山薬泗洞861遺跡』、2005

32.         嶺南大学校博物館『慶山林洞地域古墳群』_2003

33.         嶺南大学校博物館『新寧旺山里遺跡』V、2003

34.         嶺南大学校博物館『高霊池山洞古墳群』、2004

35.         嶺南大学校博物館『大邱旭水洞生活遺跡』、2004

36.         嶺南大学校博物館『大邱槐田洞遺跡』、2004

37.         嶺南大学校博物館『慶山林洞地域古墳群』_2005

38.         中央文化財研究院『陰城文村里遺跡』、2001

39.         中央文化財研究院『蔚山於音里遺跡』、2001

40.         中央文化財研究院『沃川玉覚里遺跡』、2002

41.         中央文化財研究院『蔚珍烽山里遺跡』、2002

42.         中央文化財研究院『忠州水龍里遺跡』、2002

43.         中央文化財研究院『慶州吾琴里古墳群』、2002

44.         中央文化財研究院『慶州外東地区農村用水開発事業地区内遺跡発掘調査報告

45.         書』、2002

46.         中央文化財研究院『慶州城東洞大邱機関車乗務分所休憩室新築敷地内遺跡発掘

47.         調査報告書』、2002

48.         中央文化財研究院『慶州城東洞18842番地文化遺跡発掘調査報告書』、2002

49.         中央文化財研究院『慶州東川洞7765番地文化遺跡発掘調査報告書』、2002

50.         中央文化財研究院『慶州安康地区大区画耕地整理事業地区内文化財試・発掘調

51.         査報告書』、2002

52.         中央文化財研究院『慶州沙正洞2667番地文化遺跡発掘調査報告書』、2003

53.         中央文化財研究院『蔚山新■(山+見)洞遺跡』、2003

54.         中央文化財研究院『金泉大新里遺跡』、2003

55.         中央文化財研究院『報恩上長里遺跡』、2004

56.         中央文化財研究院『慶州城東洞慶州車両分所検受庫新築敷地内遺跡発掘調査報

57.         告書』、2004

58.         中央文化財研究院『慶州仁洞里遺跡』、2004

59.         中央文化財研究院『浦項杞渓地区農村用水開発事業予定敷地内遺跡試・発掘調

60.         査報告書』、2004

61.         中央文化財研究院『安東造塔里古墳』、2004

62.         中央文化財研究院『清渓川遺跡』、2004

63.         中央文化財研究院『陰城下唐里遺跡』、2004

64.         中央文化財研究院『慶州九政洞2551番地単独住宅新築敷地内遺跡発掘調査

65.         報告書』、2004

66.         中央文化財研究院『東莱楽民洞貝塚』、2004

67.         中央文化財研究院『大田槐亭高等学校新築敷地内遺跡発掘調査報告書』、2005

68.         中央文化財研究院『鎮川三徳里古墳』、2005

69.         中央文化財研究院『鎮川新月里遺跡』、2005

70.         中央文化財研究院『国道35号線(彦陽〜仁甫間)拡・舗装工事区間内遺跡発

71.         掘調査報告書』、2005

72.         中央文化財研究院『慶州徳泉里古墳群』、2005

73.         中央文化財研究院『蔚山九英里遺跡(本文)』、2005

74.         中央文化財研究院『蔚山九英里遺跡(写真)』、2005

75.         中央文化財研究院『清原大栗里・馬山里・楓井里遺跡』、2005

76.         中央文化財研究院『大田伏龍洞遺跡』、2005

77.         中央文化財研究院『大田下基洞遺跡』、2005

78.         中央文化財研究院『大田秋洞遺跡』、2005

79.         中央文化財研究院『松坡長旨洞遺跡』、2005

80.         中央文化財研究院『平沢斗陵里遺跡』、2005

81.         中央文化財研究院『平沢七槐洞・土津里遺跡』、2005

82.         中央文化財研究院『慶州西部洞小売店新築敷地内遺跡発掘調査報告書』、2005

83.         中央文化財研究院『慶州盧谷里・茸長里・拝洞遺跡』、2005

84.         中央文化財研究院『龍仁倉里・貢税里・文村里遺跡』、2005

85.         中央文化財研究院『天安梅城里遺跡』、2005

86.         中央文化財研究院『金泉龍田里・草谷里遺跡』、2005

87.         中央文化財研究院『大田九岩洞遺跡』、2006

【今後の研究会の予定】

 7月9日、在日・未定、近現代史・未定、8月休み(前号でご案内した済州島での強制連行交流集会があります。http://ksyc.jp/renko/200608cheju.htm 参照)、9月10日、在日・未定、近現代史・吉川絢子 ※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

【月報の巻頭エッセーの予定】

 7月号以降は、藤井幸之助、松田利彦、水野直樹、山地久美子、横山篤夫、伊地知紀子、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植、・・・。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

【編集後記】

           みなさまいかがお過ごしでしょうか。六甲は今年もホタルが出てきました。まだ数匹です。このニュースを発送している方には済州島集会の案内を同封しています。定員はバスの都合で40名です。参加希望の方は早い目に飛田まで申し込んでください。

           青丘文庫の図書は、研究会員などが寄贈してそれなりに充実してきています。寄贈された方の本を月報でも紹介します。メールでお知らせください。飛田雄一 hida@ksyc.jp

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