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青丘文庫研究会月報<201号> 2006年1月1日

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

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 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

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     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。=========================================================================

 

●青丘文庫研究会のご案内●

■第279回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

2006年1月8日(日)午後3時〜5時

「融和碑と見られていた『鬼城繁太郎氏永世不忘碑』(1928年・京橋)の再検討」塚崎昌之

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

  神戸市中央区楠町7-2-1 TEL 078-371-3351(地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10)

■朝鮮近現代史研究会はお休みです。

 

●●<巻頭エッセー>

「大長今」  金森襄作

 

「退職で自由の身に」と、大いに期待していた矢先、相方が難病で入退院の繰り返し、看病側の自分も糖尿とかでダウン。気力がぬけ何もできずただブラブラの毎日、ともかく退屈でついテレビのスイッチへ。ところがニュース以外にほとんど見る番組がないのである。「ここまで堕落したのか」他に何かましなものはとパラボラをつけた所「大長今」(長今の誓い)、すっかりはまってしまった。世のヨン様ブ〜ムをあれほど冷ややかにみていたはずなのに、理屈も何もあったものではない、面白いのだから仕方ない。時代考証は問題だし、スト〜リ〜自体も同じタイプの繰り返しで、ケチをつければきりがない、それでも「これでもか、これでもか」と、必死の向かってくる作り手たちの熱意や活力に手引き寄せられざるをえないのである。私には何故か、今日の日本と韓国差異をみせつけられているように思えて仕方ない。

 大量生産が壁に突き当たり、次の展望をみいだせないまま、ふくろこうじに落ち込んでいる日本経済、IMFショックで国民経済の完全破壊といわれながらも、得意部門に集中して3〜4パ〜セント増の成長までにいたった韓国経済。大借金とアジアからの孤立化の中での今回の選挙の結果、独自の路線を歩もうとする韓国の政治や外交。文化も教育も戦後の日本の民主主義とはいったい何だったのだろうか。

 凋落を韓国番組で何とかくみ止めようとする、なさけないNHKのおかげで、何十万名のオバチャマ族が撮影現場となった韓国の地方都市を徘徊しているという。もはや観光をこえ、これは新たな日韓交流の始まりだといえよう。このような事態に果たして、朝鮮史研究者たちは対応できているだろうか。

 

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 亡くなられた飯沼二郎先生の朝鮮関係の本は、遺言により青丘文庫に寄付されることになっています。また、昨年115日に開かれた飯沼先生を偲ぶ会の残金も実行委員会の方々が青丘文庫に寄付してくださることになっています。文庫に贈呈する本の代金にあてさせていただきます。ありがとうございました。

 

●●<第273回在日朝鮮人運動史研究会関西部会/2005年7月10日>

国籍と移民政策の変容過程の社会学的考察

         ニューヨーク州立大学ストニーブルック校 愼和枝(シン ファジ)

 

 近年、日本を含む世界各国で移民に対する政策や国籍法のあり方が問われている。日本の政治家やジャーナリスト、知識人のなかには定住外国人である在日コリアンたちが日本で今与えられている以上の権利(特に参政権)を望むのであれば、まず日本国籍を取得するべきであると言う意見を持つ人たちがいる。私たちの権利を制限したり、アイデンティティの形成に大きな影響を与えるこの「国籍」は一体どのようにして作られ変化していくのだろうか? これは、今後日本における定住外国人たちが日本においてどのように権利を拡大し、そして日本の国籍は増加傾向にある外国人たちにどのような対応をしていくのか(あるいはしていくべきなのか)を考え議論する上で、大変重要な問いかけだと私は考える。

 こうした研究意識に基づき、20世紀前半に視点を置き、帝国主義時代、戦後・冷戦時代、そしてグローバル時代(1980年代から現代)の3つの時代に区分し、それぞれの時代の中でどのように国籍と移民政策が作り・作り変えられていったのか、そしてそもそも日本社会において国籍および移民に対する政策とはどのような役割を果たしてきたのかを1次資料と2次資料を基に考察をしてみた。従来の国籍・移民に関する理論では、国籍は、移民政策は国家意識や政治体制といった内的な要因、あるいは植民地主義、冷戦主義、グローバライゼーションといった外的な要因のいずれかによって変容していくものだと唱えられているが、日本の国籍・移民政策の変容過程を調べてみると、国籍・移民政策はこれらの内的・外的な要因が相互に作用することによって変わっていくと考えるほうが妥当であり、またこれまでの欧米の学者たちによる日本研究の中で注目されてこなかった在日朝鮮人たちの社会運動も実はこれらの政策を変化させていく上で重要な役割を果たしているということがうかがえる。日本の国籍法・移民政策の成立過程を調べると国籍法と移民政策は、権利の集約や秩序を守るための単なる法律としての役割のほかに、外交上の駆け引きや支配者が被支配者を搾取するための政治的道具としても利用されてきたことがよくわかる。そして、支配者側の選択肢は世界システムの中の国同士の力関係で制限され、また被支配者側の運動が制度を改善させることができるかどうかは、内外からの支持のレベルに大きく影響を受けるということも、日本のケースは示唆している。さらに、日本の国籍と移民法は、社会において国家という人工的に作られた物理的・概念的共同体の境界線を定義し、そしてそれを守るという役割をも果たしている。つまり国籍法や移民政策というものは既存の理論が唱えるように、国家意識や政治体制といったものが変化したから変化をするものでも、民主主義や多元主義が浸透したから変化するというものではなく、さまざまな内・外的要因が複雑に交差した結果変化していくということが、日本の事例からうかがうことができる。

 今後の課題としては、本研究においてまだ十分に検証できていない移民政策の考察に力を注いでいこうと思っている。

 

●●<第237回朝鮮近現代史研究会/2005年11月13日>

「解放直後・ 在日済州島出身者の生活史調査」      伊地知紀子

 

 今回の報告は、1999年に結成した「在日済州島出身者の生活史を記録する会」の活動と調査経過および調査記録についてである。現在総勢10名で活動しているこの会は、記録としてこれまで4名の方について3回にわたり公刊してきた。以下の文章は、藤永壮・高正子・伊地知紀子・鄭英雅・皇甫佳英・張叶実「解放直後・在日済州島出身者の生活史調査(1)?梁愛正さんへのインタビュー記録?」(『大阪産業大学論集人文科学編』102103,2000)の「調査の目的」をほぼ抜粋し若干手を加えたものである。

 大阪は、日本全国でも韓国・朝鮮人が集中している地域であり、しかもその多くを済州島出身者が占めている。それは日本の朝鮮植民地支配期間中の1920年代前半より、大阪・済州島間に定期航路が開設され、多数の済州島人が生活の糧を求めて来阪、定着したという事情によるところが大きい。そのため済州島出身者を中心とする植民地期の在阪朝鮮人の生活史は、従来からさまざまな観点から検討されてきた。

 しかしこれとは対照的に、植民地支配から解放された直後の在阪朝鮮人の歴史については、さほど研究の蓄積があるとは言えない。なかでも当時の生活状況については、従来は断片的な記録や証言から推測できる程度であり、その実態はほとんど明らかにされていない。そこで、私たち?歴史学・社会学・人類学の研究者と、大阪で在日の地域活動に取り組む市民たち?は、在阪朝鮮人の多数を占める済州島出身の方から、この時期の生活状況を伺うインタビュー調査を実施し、これを記録することによって、民衆の視点から見た、等身大の東アジア現代史の実像を跡づけていきたいと考えたのである。

 ここでとくに留意しておかなければならないのは、多くの済州島出身者が、解放前後の時期にいったん済州島に帰りながら、その後の政治的混乱を避け、日本に再渡航したケースがしばしば見られることである。解放後の左右のイデオロギー対立と冷戦の激化を背景に、朝鮮半島の南北分断の危機が迫るなか、済州島では1947年の3・1事件を契機として右翼勢力による住民迫害事件が多発し、翌48年にはこうした状況に抗して島民の蜂起(4・3事件)が発生、権力者による苛酷な弾圧が繰り広げられた。この4・3事件は、民衆虐殺の実態を糊塗しようとする韓国の歴代反共政権により、長く「共産主義者の暴動」と決めつけられてきたが、近年ようやく事件の詳細が明らかにされつつあり、従来タブーとされてきた体験者の証言も、さまざまメディアを通じて伝えられるようになった。

 こうした郷里の悲劇が、在日の済州島出身者の人生に大きな影を落としていることは言うまでもないが、それは日本での生活体験とともに、まさしく東アジア現代史の矛盾の縮図とも言うべき事象である。このような意味で、在日の済州島出身者の歴史的体験は、後世に受け継がれるべき記憶として、ぜひとも記録にとどめておく必要があると考えたのである。私たちの会は、1999年から調査を開始し2001年にいったん休止、2005年に新たなメンバーが加わり現在ゆっくり調査を進めている。

調査のまとめとして他に、藤永壮・高正子・伊地知紀子・鄭英雅・皇甫佳英・張叶実・張征峰「解放直後・在日済州島出身者の生活史調査(2)?金徳仁さん・朴仁仲さんへのインタビュー記録?」(『大阪産業大学論集人文科学編』104,2001)と藤永壮・高正子・伊地知紀子・鄭英雅・皇甫佳英・張叶実「解放直後・在日済州島出身者の生活史調査(3)?姜京子さんへのインタビュー記録?」(『大阪産業大学論集人文科学編』105,2001)がある。抜き刷りを希望される方は御連絡ください。

 

【今後の研究会の予定】

2月12日、在日・黒川伊織、近現代史・堀添伸一郎、3月12日、在日未定、近現代史・李景a、4月9日、在日未定、近現代史・藤井賢二

※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

【月報の巻頭エッセーの予定】

2006年2月号以降は、太田修、金隆明、福井譲、藤井幸之助、松田利彦、水野直樹、山地久美子、横山篤夫、伊地知紀子、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、金隆明、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植、・・・。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】

★新年あけましておめでとうございます。みなさまは新年をどのようにお迎えになられたでしょうか。昨年は、悪いことばかりが続いたような気がしますが、今年はいい年になるように願っています。

★1月の研究会は、近現代史研究会の方をお休みしにます。スタート時間が午後3時からとなっていますのでご注意ください。昨年の忘年会は、韓国からのお客さん、兵庫朝鮮関係研究会のフィールドワークの事務局メンバーも加えて盛大なものとなりましたが、また新年会をしましょうか。

★本年もよろしくお願いします。           飛田雄一 hida@ksyc.jp

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