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青丘文庫研究会月報<200号> 2005年11月1日

 

発行:青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1

()神戸学生青年センター内  TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878 http://www.ksyc.jp/sb/ e-mail hida@ksyc.jp

 @在日朝鮮人運動史研究会関西部会(代表・飛田雄一)

 A朝鮮近現代史研究会(代表・水野直樹)

郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>年間購読料3000

     他に、青丘文庫に寄付する図書の購入費として2000円/年をお願いします。=========================================================================

 

●青丘文庫研究会のご案内●

■第277回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

11月13日(日)午後1時〜3時

1970年福岡県田川市における在日朝鮮人の

            国籍書き換え問題に関する研究」李敬史

■第237回朝鮮近現代史研究会

11月13日(日)午後3時〜5時

 「解放直後・在日済州島出身者の生活史調査」伊地知紀子

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

  神戸市中央区楠町7-2-1 TEL 078-371-3351

  (地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10)

 

<巻頭エッセー>

予言の研究についての雑感    青野正明

 朝のテレビ番組には、たいてい「今日の運勢」のようなコーナーがある。占いといえば、某占い師の占いが近年の流行で、彼女の出演するバラエティ番組は視聴率が軒並みに上がるそうだ。また、予言・超能力・透視などの特集番組も頻繁に放送されている。

 思うに、多くの人は多かれ少なかれ心の渇きを抱えていて、〈合理〉と〈非合理〉の間を揺れ動き、心の中で両者の均衡を保ちながら生きているのではないだろうか。この〈非合理〉の部分における宗教性の内実は人それぞれだろう。だが、この宗教性というものはその性質上、極めて主観的かつ不公平に扱われているように思われる。

 たとえば「迷信」という概念は近代において産まれたものである。では、ある信仰行為が「迷信」であるかどうかの判断基準は何であろうか。病気の治癒を願う祈りにしても、既存の宗教団体のものと新しい団体のものとでは、人びとの受け止め方が異なってくる。後者の方が「迷信」視される傾向にあり、公平に扱われているとはいえないだろう。

 占いは逆に、古いタイプのものは「迷信」扱いされ、流行となったものはファッションのように受け入れられている。近年の占いはこの繰り返しではなかろうか。学説によると、信仰行為における「邪教」性や「迷信」性を規定してきたのはその時代の国家・社会であったという。確かに、この見方で現代の信仰現象を見てみたら肯けるところがある。

 では、植民地下朝鮮の場合はどうだったのか。従来私は、この「迷信」概念が朝鮮にどのように登場し、どのような政策となっていったのかという問題に関心をもってきた。とはいえ、人びとの心性に関わる問題だけに自分の限界を痛感する日々を送っている。

 そんな中、職場のアジア文化関係担当の同僚2人と意気投合して、今年度から「天変地異の社会学」というテーマで小さな学内共同研究を始めた。3人の中で、古代中国の予言に業績のある同僚が代表者になった。学外からも4人の研究者に加わってもらった。

 この代表者によると、古来、中国では異常気象も天災もすべて地上の政治が正しく機能していないことの証だと考えられた。このような考え方はアジア諸国では今なお健在で、中国では時に天変地異が人々の現実政治批判を促すという。

 朝鮮の場合、朝鮮時代に生まれた予言書『鄭鑑録』(李氏の王朝滅亡と鄭氏による新王朝の建設を予言し、災禍の時に非難すべき場所として「十勝之地」も説かれている)に注目することにした。『鄭鑑録』に関しては、新宗教団体への影響やキリスト教土着化を見る観点から、韓国ですでに多くの研究がなされている。だが、その民族主義的な研究動向とは距離を置いて、この機会に「災異説」の側面から相対化し直すことも意味があるのではと考えたためである。この作業は学外からのメンバーにお願いすることにした。

 私は、植民地期の新宗教団体にも『鄭鑑録』の「予言」が大きく影響している事実に着目し、これを朝鮮総督府がどのように調査・認識し、政策(つまり取締り・弾圧)に結びつけていったのかを考察しようと思っている。これまでもある程度は研究してきたテーマである。それを進める形で、朝鮮総督府調査資料第37輯の『朝鮮の占卜と予言』(1933年)を中心に分析するつもりでいる。

 また、巫俗やいわゆる「類似宗教」に対する政策とも関連させたいという希望もある。とはいえ、今なお漠然とした構想に留まり、先がなかなか見えない日々である。自分に透視の能力でもあれば、と願うのは愚かなことだと知ってはいるが。

 

<第235回朝鮮近現代史研究会/2005911日>

アメリカにおける朴泳孝〜主として英語文献から〜 石黒由章

 伝統論という言葉がある。ながくつづいた伝統には、つづくだけの理由が当然ある。その理由の探究を怠って、これをいっきょに清算して新しい伝統をつくろうとするのは無理であり、またできることでもない。しかし、われわれの生活や人生の規範は伝統のなかにあり、それを護持さえすればよいという意味なら、伝統論は一種の保守主義であり、われわれは容認しがたい。とくに歴史上の人物や出来事を評価する場合、既成の評価というものがしばしば存在しており、これがわれわれの判断を大きく左右するのである。それは時と場所によって変わるだろうし、個人によっても大きく異なってくる。また、資料の質や量によっても違ってくるかもしれない。既成の評価や資料をどのように判断するかは、結局のところ、われわれ次第であるが、その場合、「正」を取って「盲」にならないようにする直感や洞察力、あるいは偏った評価にたいしてNoといえる、歴史観が必要となってくるのである。

 朴泳孝(18611939)という人物に評価を与える場合、どうなるのか。これまで、朴は親日家であり売国奴である、という仮説が多くの研究者のあいだで提起され支持されてきたが、現在、この既成の概念を1度取り外して精力的に朴観を再構築しているのが金慶海氏である。本稿「アメリカにおける朴泳孝」は、そうした金慶海氏の朴泳孝研究アメリカ編の補足版という形になっている。英文資料の蒐集・読解・翻訳・考察を、金氏にかわって本稿が補足・代行しているからである。

 十九世紀、帝国主義の嵐が吹き荒れる中で、列強の侵略から祖国朝鮮を守り、強い近代国家に生まれ変わらせようとした朴泳孝。彼は亡命した日本で再起を期す一方、アメリカへ赴き、そこでキリスト教と西洋文明というものに強く惹かれることになる。あるいは、興味を抱いていたからアメリカに行ったのかもしれない。ニューヨークの新聞にアメリカに来た理由を聞かれて、「耶蘇教徒になって祖国を開明に導くため」という朴の発言があるが、どうしてアメリカだったのか?という素朴な疑問がある。また、東洋平和の展望について聞かれ、朴はこう答えている。「もしアメリカのような非利己的で寛大な国が、東洋平和のために保護の手を差し伸べてくれるなら、それは素晴らしいことであり、文明の発展に大いに寄与することとなるでしょう。私は一朝鮮人であり、朝鮮が偉大な国になる日を望みますが、それはロシアによって治められる国ではなく、日本によって治められる国でもない。朝鮮人によって治められる国なのです。このことは文明開化とキリスト教によってもたらされると思います。」

 これは、単なるリップ・サービスかもしれない。しかし、もし本心だとすると、朴は、ジェネラル・シャーマン号事件(1866)という軋轢が過去にはあったけれども、アメリカという国家を、他の列強とは少し違うふうに見ていたのかもしれない。あるいは、この大国を後ろ盾にして(または利用して)、帝国主義という大海を航海しようと考えていたのではないか。途中、ロシアや日本といった荒波や嵐からアメリカが守ってくれるだろう、という期待を寄せながら。

 もちろん、これはひとつの推測であり、朴の米国観を言い表したものでもなんでもない。ただ、朴が滞在した外国は日本とアメリカだけであり(アメリカ行きの途中、カナダ・バンクーバーを通過しているが)、深く交流した外国人も、日本人とアメリカ人だけであり、言葉に出して朝鮮の近代化のために支援を求めた国もまた、日本とアメリカだけであったことを考え合わせると、朴=親米家とはいえないまでも、彼の近代国家建設構想の中で、アメリカという国家は、日本とは別の、かなり重要な位置にランクされていたと考えてもよさそうである。

 

●新刊案内●

在日朝鮮人運動史研究会編

『在日朝鮮人史研究』35号(2005年10月、緑陰書房、2520円)

●目次●

釜山で開かれた「第二回日韓歴史研究者共同学会」に参加して 崔碩義

一九二〇年代の在阪朝鮮人「融和」教育の見直し

   −済美第四小学校夜間特別学級第二部の事例を通して 塚崎昌之

一九三〇年代・愛知県における朝鮮人の教育活動

    −朝鮮普成学院(名古屋普通学校)とその周辺  西秀成

戦前期京都市郊外吉祥院における朝鮮人の流入過程 高野昭雄

勿来地域における「朝鮮人飯場」と戦時労働動員についての調査メモ 龍田光司

石狩炭田での朝鮮人労働について 竹内康人

本願寺札幌別院の朝鮮人「遺骨遺留品整理簿」−内容と若干の考寮 白戸仁康

プランゲ文庫所蔵の在日朝鮮人刊行新聞にみる済州四・三認識19481949 村上尚子

<教育実践>日韓の歴史と未来への道−「冬のソナタ」から強制労働の学びへ 西村美智子

 この雑誌を特価2000円(送料160円)で販売します。購入希望者は、2160円を郵便振替<00970−0−68837 青丘文庫月報>までお送りください。(在日朝鮮人史運動史研究会のメンバーは会費5000円です。雑誌を3冊お渡しします。)

 

<神戸学生青年センター・朝鮮史セミナー>

「朝鮮人強制連行」の現在

(1)全国強制労働現場一覧表を作成して

     人権平和・浜松、朝鮮人強制連行史研究家 竹内康人さん

※竹内さんは、長年の調査活動の集大成として自身のホームページに現場一覧表を発表されました。http://www16.ocn.ne.jp/~pacohama/sensosekinin/flaber0506.html その現場は、2,679カ所となっています。

 

(2)兵庫県の朝鮮人強制連行  兵庫朝鮮関係研究会 金慶海さん

※金慶海さんは、兵庫朝鮮関係研究会創立メンバーのひとりで、『鉱山と朝鮮人強制連行』(明石書店)『在日朝鮮人90年の軌跡』(神戸学生青年センター出版部)などに県下の朝鮮人強制連行にかんする論文を多く書かれています。

 11月19日(土)午後2時

 会場:神戸学生青年センターホール 

 参加費:600円(学生300円)

 ※「強制動員真相究明ネットワーク」 兵庫集会として開催します。

 

<飯沼二郎先生を偲ぶ会ご案内>

 日 時:2005115日(土)午後6時〜

 場 所:京大会館201号室

    [京都市左京区吉田河原町15-9 電話0757518311

 会 費:6000

 (よびかけ人)

 石田紀郎 小野誠之 姜 在彦 北上田毅 金 時鐘 塩沢由典 鈴木正穂 

 高稀幸子 田中其人 槌田 劭 鶴見俊輔 水野直樹

 [連絡先】〒604-8187京都市中京区御池通烏丸東入京ビル7階 烏丸法律事務所

 電話0752232714 FAX0752232718 関谷滋 sekiya.s@nifty.com

 準備の都合上、(お声をかけられた方がいらっしゃればその方を含めて)ご出欠のご返事を  

 1024日までにいただきたくお願い申し上げます

 

【今後の研究会の予定】

12月11日、在日・李陽子、近現代史・高村竜平、2006年は、1月8日、2月12日、

※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

2005年11月号以降は、金森襄作、太田修、金隆明、福井譲、藤井幸之助、松田利彦、水野直樹、山地久美子、横山篤夫、伊地知紀子、稲継靖之、宇野田尚哉、金誠、金隆明、佐藤典子、佐野通夫、田部美智雄、張允植、・・・。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

【編集後記】 みなさん、ごきげんよろしゅう。飛田雄一 hida@ksyc.jp

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