青丘文庫研究会月報 198号/2005年7月1日 青丘文庫研究会 〒657-0064 神戸市灘区山田町3-1-1 (財)神戸学生青年センター内 TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878
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TEL 078-371-3351(地下鉄大倉山駅下車すぐ、JR神戸駅北10分) ●巻頭エッセー ジョージ・ケナンと朝鮮戦争 李景a ジョージ・ケナン(1904−2005)は、冷戦時代の米外交の基本となるソ連「封じ込め」政策の立案者として知られる。朝鮮戦争が勃発したとき、彼は国務省の政策企画室長を離れていた。ケナンの国務省への影響力は低下していたが、ソ連の外交的習性を熟知していただけに、米国にとってソ連の対応を探る上で彼は欠かせない人物であった。 ケナンは朝鮮戦争の起源について、 米国が日本の非武装中立を取り止め、武装させる政策を取り始めたことが影響していると指摘する(『アメリカ外交50年』)。1949年終わりから1950年初めにかけて起こった米国の日本の再軍備、いわゆる逆コース政策がもたらしたと捉えている。日本が米国の軍事力の根拠地であり続けるとすれば、その見返りとして、ソ連は朝鮮に対しての政治的地位の強化を狙っていたのではないだろうか。ソ連は北朝鮮に対して南を攻撃することを奨励はしないにせよ、許容する姿勢をとっていたとみる。 そして朝鮮戦争で米国が「反逆」にでるに当たって考慮したことは、“釜山に赤旗がたつ”事態であり、それが日本の国内治安に脅威となるからだという。米国は共産主義の浸透に対処する効果的な手段を持っていなかった日本の潜在的な軍事・経済・産業の大基地としての存在を最も重視していた。 ケナンは仁川上陸作戦後、戦争がさらに拡大されることを危惧した。それはソ連の介入を招き、結局世界大戦への発展の可能性が高いと捉えたからだ。ケナンは、米国は軍事的に成功をみる場合においても既定の分割線を越えてはならない、38度線以北へのいかなる進攻にも反対した。 周知のように、後に米国は東アジアにおける巻き返しを図る意図から、米国の地上軍を大量に投下し、朝鮮全土に戦線を拡大していった。ソウルは、四回も敵と味方の軍勢に占領される熾烈な攻防戦を経験した。平壌を占領した国連軍は鴨緑江付近にまで接近、中国軍と朝鮮人民軍の手痛い反撃に遭遇した。トルーマン大統領が原爆使用を示唆したし、マッカーサーは中国東北部への戦線の拡大を主張したのであった。 2003年イラク戦争に際して、ケナンは無論反対した。テロとの戦いとはまったく関係のないこの戦争の開始にいたる過程を皆が目撃している。だが、いったん戦闘に突入すると戦争の論理で突っ走るようになる。その理不尽さ、悲惨さをだれも止めることが出来ないのだと警鐘をならしたのであった。 ●第271回在日朝鮮人運動史研究会関西部会(2005.5.18) 在日コリアンの若者のアイデンティティー研究 ――愛媛県の在日コリアンを事例として―― 崔海仙 今まで在日コリアンのアイデンティティーの先行研究に基づいて、若者のアイデンティティーを中心として愛媛県の事例を考察してみた。 在日コリアンの世代によるアイデンティティーすなわち一世や二世のアイデンティティーはその時代の特色とともにわれわれによく伝われている。一世たちは本国生まれた人々で、民族に誇りをもち、抑圧勢力と対抗しながら自らのアイデンティティーを明確的に保持していた。日本で生まれ育った二世は一世が主張してきた民族概念と日本社会への適応の間にジレンマを深く感じる。そして日本社会の不平等、差別、抑圧と戦いながら民族の自覚と同化しようする二つの傾向のアイデンティティーを確保する。しかし、在日コリアンによる生活の諸権利を求める運動が成果を収めた90年代に入ると世界的の政治情勢が大きく変化するとともに世界のグローバル化、日本社会の共生意識の向上によって日本社会の制度的差別が緩やかになってきた。さらに、現在の韓流ブームも在日コリアンのアイデンティティーに影響を与えた。こういう状況のなかで在日コリアンの三世たちに現れているアイデンティティーは多様である。 日本で生まれ育ったことから民族教育、家庭教育、職業などの影響で一世や二世と同じアイデンティティーを持つ人々は当然存在するが、異なる部分も三世の中では現れている。若い人々の中でもっとも普遍的に存在するのは本国人でも日本人でもない在日コリアンのであることを主張する傾向が多い。本国人、日本人、アジア人、在日コリアン、国際人など個々人の経験、意志によって選択肢も増えていく。特に民族教育と家庭教育の視点で在日コリアンの若者のアイデンティティーの形成に対して分析してみると民族教育と家庭教育はアイデンティティーの形成に直接あるいは間接的に影響を与えるが、自己判断の能力が成り立つと民族教育と家庭教育の枠組みの範疇を超えてより多様で柔軟にアイデンティティーが形成される。これは時代的特徴と緊密な関係があるとともに、国籍・民族・出生地をめぐって在日コリアンの抱える存在への矛盾のなかで、個々人が自分自身にとってより生きやすいアイデンティティーを形成していく傾向がみられる。 ●第233回朝鮮近現代史研究会(2005.6.12) 近代的ナショナリズムとしての植民地朝鮮における‘民族主義’の考察 −1920年代の民族主義者の論理を中心として− 孫正権 従来の研究では植民地朝鮮におけるナショナリズムを抵抗的な「民族主義」として定義し、主に独立運動の側面から論じている。すなわち国家を失ってしまったNationには「民族」という概念だけが残るが故に植民地期朝鮮におけるナショナリズムとは抵抗的な「民族主義」にならざるを得ないという説明である。しかし植民地期朝鮮における「民族主義」を単純に日本の帝国主義との対峙概念から説明し、更には日本に如何に反発するかを評価の基準にする視角には、従えにくい点があるといわざるを得ない。 本研究では、従来の植民地期朝鮮における「民族主義」を独立運動論の側面からの評価だけではなく、当該期の思想という側面からの評価を試みることにしたい。故に、従来の研究でいう似非民族主義もしくは民族の裏切り者の論理という評価から民族主義の議論から論外視されている改良主義者(民族主義右派から親日派に転じた部類のこと)の思想も検討の対象とする。植民地末期において親日的動向を見せている部類の当該期の思想を検討するということは、今もなお議論の対象になっている親日派の処理問題ひいては植民地朝鮮における「民族主義」の思想的側面が明らかになると思うからである。 これを明らかにするための章立てとその内容は次のとおりである。 まず第一章では、「民族主義」をなす基本的要素である植民地朝鮮における‘民族’という概念について考察する。‘民族’という概念が1905年の朝鮮統監府設置を前後として朝鮮社会に一般化していることには、まず注意したい。これにより従来のいわゆる植民地期朝鮮における「民族主義」論にみる抵抗性の淵源を朝鮮末の諸思想から求めている視角に内在する問題点も明らかになると思う。 第二章では、植民地朝鮮の思想界を担ったとされる知識人の動向について考察する。これは本研究で明らかにしたい近代的意味のナショナリズムとしての朝鮮の「民族主義」を考察するという面、また思想の担い手の動向を綿密に検討することにより「民族主義」の思想面が見えてくると思うからでもある。 第三章では、民族主義運動と民族主義思想との関連を考察したい。周知の如く3・1運動以降の朝鮮国内における思想界は、その志向する独立運動論理(独立思想)により分裂している。この章では、まず思想分裂の様相をはじめに1920年代の諸思想、とりわけ社会主義運動の変容も検討してみることにしたい。検討の範疇に社会主義運動を入れるのは、朝鮮の民族主義が独立運動思想に支えられている思想であるとするなら、朝鮮の社会主義を検討の範囲に入れるのは当然のことであると思うからである。なお1920年代における諸思想の検討こそ、植民地期朝鮮における「民族主義」の本質の理解に繋がると思うし、また従来のような‘抵抗的な民族主義’という評価ではない新しい定義ができると思うのである。 今後の検討は上述したことの解明を中心に行なう予定である。最後に検討の結果をもとに第四章と第五章で、近代的ナショナリズムとしての朝鮮の民族主義の本質と限界さらに植民地朝鮮の民族主義に関する認識転換と発展方向について述べていきたいと思うのである。 ●神戸学生青年センターのセミナーご案内● ■朝鮮史セミナー/朝鮮解放60年を考える−朝鮮半島の60年、在日朝鮮人の60年− 講演(1)解放後の朝鮮−1945〜2005−大阪産業大学教授 藤永 壮(ふじなが たけし) さん 講演(2)在日朝鮮人にとっての戦後60年 神戸学生青年センター館長 飛田雄一(ひだ ゆういち)さん ・日時:7月23日(土)午後2時/・参加費:600円(学生300円) ※会場・主催はいずれも神戸学生青年センター(阪急六甲下車徒歩3分、JR六甲道下車徒歩10分) ●「強制動員真相究明ネットワーク」結成総会=日韓共同による真相究明を目指して=● 2005年7月18日(月・休) 午後1時開場 1時半開会 在日本韓国YMCA アジア青少年センター 9階 国際ホール(JR水道橋下車徒歩10分) プログラム◆講演/山田昭次氏、樋口雄一氏 ◆あいさつ 崔鳳泰氏(韓国・真相究明委員会事務局長)◆事務局からの提案と結成宣言◆呼びかけ人からのあいさつ◆各地での真相究明の取り組み報告ほか 【今後の研究会の予定】 8月は青丘文庫ではお休み(釜山で在日の研究会があります)、9月10日・在日未定・近現代史・石黒由章、10月9日、11月13日、 ※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。 【月報の巻頭エッセーの予定】 2005年9月号以降は、太田修、金森襄作、金隆明、福井譲、藤井幸之助・・・。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。 ●在日朝鮮人史研究・第2回日韓共同学術会議ご案内● 日時:2005年8月6日(土)〜7日(日) 研究発表討論(6日)とフィールドワーク(7日) 会場:韓国釜山海雲台B&Bホテル 051-742-3211 主題:韓日(日韓)関係史における在日朝鮮人の存在意味 韓国側問合せ申込み先:霊山大学国際学部・朴晋雨(韓日民族問題学会研究理事) TEL051-540-7092 FAX051−540−7189 e-mail pjw3331@ysu.ac.jp 日本側問合せ申込み先:神戸学生青年センター・飛田雄一(在日朝鮮人運動史研究会関西部会代表)TEL 078-851-2760 FAX 078-821-5878 e-mail hida@ksyc.jp <編集後記> ★ 毎日暑い日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。空梅雨かと思っていたらかなり沢山の雨が急に降りました。水不足はだいぶ解消されたようですが、被害にあわれた方はおられなかたでしょうか。月報7月号をお届けします。 ★ 上記案内のように8月に釜山でシンポジュウムを開催します。在日朝鮮人運動史研究会の関東部会、関西部会それに韓日民族問題学会(ソウル)の共催プログラムです。参加の方は早い目に飛田までお申込みください。 ★ 強制動員真相究明ネットワークhttp://www.ksyc.jp/sinsou-net/ が立ち上がります。詳しくは、ホームページを参照ください。 2005.7.5 飛田雄一hida@ksyc.jp |