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青丘文庫月報 195号/ 2005年4月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

 

■第270回在日朝鮮人運動史研究会関西部会

4月10日(日)午後1時〜3時

「愛知県における在日朝鮮人の教育運動−朝鮮普成学院 193135年」西秀成

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

 

■第231回朝鮮近現代史研究会

午後3時から大倉山公園での花見をします。大倉山公園は伊藤博文の銅像が建っていたこともあります。堀内さんに解説をうかがいます。

参加費一般2000円、学生1000円。

 

※会場 神戸市立中央図書館内 青丘文庫

 

●巻頭エッセー 

東北工程の行く末                 森川展昭

 中国は1997年頃から東北工程(満州地方の総合研究プロジェクト)を立ち上げ、21世紀に入り、内外にその一端が公開されるようになった。

中国がこのようなプロジェクトを立ち上げたのは、米ソ冷戦体制崩壊後にソ連内の諸民族が独立し、中国国内および国境周辺の諸民族が民族独立、民族自治の動きを見せたことによる。中華人民共和国に「中華民族」という概念を創成し、現中国の版図を強固なものにしようとしている。

 中国歴史学界では、過去の歴史がどうであれ、現在ある国家が過去の諸民族の興亡の歴史および55の少数民族を漢民族化した「大中華民族」に包摂し、中華民族史にしていくのだという論理が東北工程の基礎にある。ここには現代中国の「力の論理」がある。

この学術研究プロジェクトが今ここで大きな国際問題として浮上したのは高句麗、渤海の歴史的領有をめぐってである。

 今日まで高句麗や渤海は「朝鮮の古代史」に属するものと中国も「認定」してきたものをこのたびの中国の東北工程では、高句麗の故地の多くを領有するとして、高句麗の歴史についても、中国唐代の地方史と位置づけ、高句麗と唐の戦争も中央政権への統一過程と理解しようとしている。高句麗や渤海の中国諸王朝との冊封・朝貢関係も中国中原への統合・服属への一環としてみようとしている。(冊封・朝貢関係も歴代中国中央政権の辺境民族支配の一形態と解釈するならば、さて朝鮮史はどうなるのであろう?)

 周知のように高句麗の南部地方が現在の北朝鮮に当たるところから、長く朝鮮では高句麗や渤海は朝鮮史の形成の一部とみなしてきた。

 この中国の高句麗、渤海に対する新しい解釈の動きに韓国は驚愕し、ヒステリックな反応を見せた。ところが、高句麗を「朝鮮史の誇り」としてきた北朝鮮はなぜか鈍い反応である。とりわけ韓国の大きな反発に、中国も「政治問題化」しないと、すこしトーンをおさえたこともあってしばらく沈静することになった。

 しかし、今も中国は東北工程は着々と進め、今後高句麗、渤海の多くの歴史遺物を発見し、学術的成果を収めていくものと思われる。南北朝鮮の高句麗・渤海研究が立ち遅れる場合、高句麗・渤海は朝鮮史のみのものでなくなっていくかもしれない。これからの南北朝鮮と中国の国際政治関係の影響を受けるかもしれない。中国の東北工程は「歴史と学術研究は国家より出て、国家に属するものである」のかと考え込む。

 

●第228回朝鮮近現代史研究会(2005.1.9

「皇国臣民の誓詞」「皇国臣民誓詞之柱」について  水野直樹

 

 朝鮮総督府が193710月に制定した「皇国臣民の誓詞」は、日本の歴史教科書にも触れられているくらい、よく知られたものである。1945年の日本敗戦・朝鮮解放までの時期、様々な場でこれを唱えさせることによって、朝鮮人を「皇国臣民化」しようとしただけでなく、同時期の植民地支配政策のあり方そのものをも規定するものとしても存在した。戦前日本で「教育勅語」が果した役割にたとえられることもある。

 しかし、これまで「皇国臣民の誓詞」を本格的に論じた研究はない。「誓詞」に関わる事実関係も明らかでない点が多い。さらに、1939年秋に朝鮮神宮に「皇国臣民誓詞之柱」なるものがたてられたが、これについてもあまり知られていない。「皇国臣民の誓詞」「誓詞之柱」に関わっては、当然のことながら、朝鮮人側の反応がどうであったか、という問題も重要である。これらの問題を考えるために、初歩的な整理をしておきたい。

 第一に検討しなければならない問題は、「誓詞」の制定過程、作成者の問題である。193710月初めに総督府学務局が作成し、南次郎総督の承認を得たとされるが、文案を書いたのが誰であったかは確認できない。韓国では、学務局社会教育課長金大羽が文案作成者とされているが、当時の資料からは確定できない。ただし、9月下旬に社会教育課が主となって開いた「全鮮中堅青年大会」で内容が類似する3個条の「誓詞」が採択されていることは、金大羽作成者説を補強する事実といえる。

 第二に、「誓詞」にどのような法的裏付けがあったのかという問題である。当時の新聞記事では、総督の決済を得て学務局が関係官庁・機関に通牒を発したと報じられているが、通牒そのものは見当たらない。「誓詞」制定直後に考案された「皇国臣民体操」については、108日付の学務局長通牒があるにもかかわらず、「誓詞」に関わる通牒が出されなかったとすれば、「誓詞」が法的根拠なしに朝鮮人に強要されたということになる(もちろん通牒があったとしても不当な強要であった点は変わらないが)。そもそも「誓詞」は、「教育勅語」とは異なり朝鮮人の自発性を前提とする建前をとっていたから、それを無理やり唱えさせるような通牒を出すことは憚られたのではないだろうか。

 このように制定の経緯や根拠が曖昧であったにもかかわらず、「誓詞」は様々な場面で唱えさせられ、官吏任用試験に出題されたりもしている。朝鮮人の「皇民化」を促進するものであり、またそれを証明するものでもあった。

 それを象徴的に表わすものが「皇国臣民誓詞之柱」である。「誓詞」制定の2年後、学校の児童・生徒などから徴収した寄付金10万円で、高さ約17メートルの塔が朝鮮神宮参道脇にたてられた。中には児童・生徒140万人が書いた「誓詞」が納められたという。「皇民化」を象徴するこの塔にならって、各地の神社・学校に「誓詞の碑」「誓詞の柱」がたてられていくことになった。

 戦時期の皇民化政策の様相をとらえるためには、「誓詞」や「誓詞之柱」がどのような形で朝鮮民衆の間に浸透させられていったかを具体的に検討する必要がある。

 

●第229回朝鮮近現代史研究会(2005.2.13

韓国社会における朝鮮族労働者と地域住民との共存のあり方 金永基

 

 今まで国際労働力移動に関する既存の理論的な論議のなかでは、国際移動を異なる民族、異なる国家の間で行われる現象として把握し、同民族間の移動という現象はあまり関心の対象にならなかった。また韓国における外国人労働者と韓国社会との関係に関する研究も、その10年余という短い移住史のせいで、殆どの研究が職場を中心とした社会的関係について考察してきた。しかし朝鮮族の場合は、同民族間の逆移動という性格から、他の外国人労働者と同様に‘他文化’や‘異質’という概念で説明してよいのかという問題が発生する。また、ソウル市九老区の加里蜂市場一帯には、1990年代末から中国朝鮮族が自然に集まって住んでおり、実際に生活の様々な面において、韓国人住民と朝鮮族との間での共生の問題が発生しつつある。

 本稿では以上の関心に基づき、加里蜂市場一帯における、韓国人住民と朝鮮族間の社会・文化的な相互作用と適応様相を総体的に把握してみた。

 中国朝鮮族の場合は、同じ言語と文化的な背景をもっているにも関わらず、韓国社会のなかで韓国人と社会関係を形成するのではなく、彼らだけの隔離された生活をしながら韓国人と社会的・心理的な距離感を持ちながら生活している。すなわち彼らは、韓国人との相互作用と理解を通じて韓国社会への適応を模索するより、韓国と韓国人に対する批判と反対論理を展開することによって、自分たちの行動や思考を正当化している。

 また韓国人の場合も、表面的には朝鮮族を地域社会の一員として受け入れているようにみえるが、それは現在直面している経済状況を重視して、いわば‘仕方なく’というイメージが強い。その理由としては、表面的には韓国人の民族意識は国籍と関係ない血統に基づいているようにみえるが、実際にはその民族意識は国家意識によって制限されていることが考えられる。韓国人は朝鮮族が持っている国家観と行為様式から異質性を感じ取り、彼らと葛藤を起こす。このような韓国人の対応は、結局朝鮮族を韓国社会から隔離された存在とするのである。

 

●神戸学生青年センターのセミナーご案内●

 

■ベトナム戦争終結30年/いま、反戦を問う

ビデオ上映「イントレピット脱走米兵」他

講演:「ベトナム戦争とイラク戦争」中部大学教授・小中陽太郎さん

日時:4月27日(水)午後6時30分〜9時/参加費:600円(学生300円) 

■「女性国際戦犯法廷」が問いかけてきたもの

−NHK番組への政治介入はなぜ、起こったのか?−

講師:西野瑠美子さん(VAWW−NET・ジャパン共同代表)

ビデオ:「ダイジェスト版・女性国際戦犯法廷」(21分)

日時:5月13日(金)午後6時30分/参加費:600円(学生300円)

 

■朝鮮史セミナー/日韓条約締結40周年−問い直される日本の戦後処理

講師:佛教大学教員 太田修(おおた おさむ)さん

日時:2005年6月24日(金)午後6時30分/参加費:600円(学生300円)

 

【今後の研究会の予定】

5月8日、在日・崔海仙、近現代史・徐知伶、6月12日、在日・高野昭雄、近現代史・未定、7月10日、8月はお休み、9月10日、

※研究会は基本的に毎月第2日曜日午後1〜5時に開きます。報告希望者は、飛田または水野までご連絡ください。

 

【月報の巻頭エッセーの予定】

2005年5月号以降は、山田寛人、横山篤夫、李景a、青野正明、太田修、金森襄作、金隆明、福井譲、藤井幸之助、横山篤夫・・・。よろしくお願いします。締め切りは前月の10日です。

 

<編集後記>

           今年の桜の開花は遅れているようですが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。4月号の月報をお届けします。

           4月の研究会の後半は、おそらくは満開の桜をめでながらのお花見とします。大倉山公園は伊藤博文と親交の深かった大倉喜八郎の別荘でした。伊藤の銅像があった時代もあります。いまも立派な台座が残っていますが、その上に伊藤像があったことを知る人は少ないようです。近くで適当な買い物をして花見をします。以前、朴慶植先生が毎月青丘文庫に来てくださっていた時期には、春に長岡京市の金森さんの案内で山菜を食べる会をしていました。須磨時代の青丘文庫で働かれていた金慶浩さんが参加されたときは、氏が遠くにあるトドギ(釣鐘人参)を発見し我々が崖を登って掘り出すということもしたものです。懐かしく思い出されます。

           今年8月に釜山でシンポジュウムを開催します。在日朝鮮人運動史研究会の関東部会、関西部会それに韓日民族問題学会(ソウル)の共催プログラムです。日程は、8月6日(土)、7日(日)を予定しています。今からスケジュールをあけておいてください。

           月報の「メール版」を発行しています。無料です。希望者は飛田までメールをください。現在読者は300名です。 2005.4.2 飛田雄一hida@ksyc.jp

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