日米NCC協議会/声明 1998年10月6日

1.聖書的神学的省察

 私たちは、神が全き生のために、人間と全ての被創世界を創られたことを信じます。平和に対する聖書的な意味はシャロームという言葉によく表されています。それは、すべての人に対する全体的な福祉・正義・健康をつくり出すという神の意志を意味するのです。イエス・キリストは神の国の到来を告げ、抑圧されるものを解放し、捕らわれた者を自由にし、特に周縁化された人々、すなわち「失われた者」を解放するために来られました。神の国の支配とは、政治的、経済的、社会的な生活において、すべての人に対して正義が実現することです。神の国の支配とは、また私たちに、戦争・戦争の脅威・戦争の準備のない世界を約束しています。すべての政府や同盟、そしてあらゆる人間の作った組織は、この基準によって審判を受けるのです。

 キリスト者として私たちは、わかちあいの世界に生きるよう招かれています。この地の恵は、地上に住むすべての人々のためにあるものです。かぎりない富や兵器の蓄積という浪費は罪であり、イエスキリストの生き方、神のみこころに反します。ヨベルの年における聖書的実践とは、土地や生計を失い、不正義がまかりとおる状況を、周期的に正すことです。莫大な債務を抱えている開発途上国が存在し、また世界経済において貧富の格差が拡大していく今日、私たちはヨベルの年に何をなすべきかを問いかけられています。平等、公正、地上の資源のわかちあいが、平和と安全の基礎となります。

 キリスト者として私たちは、平和をつくり出すものとなるよう招かれています。教会として集められた私たちは、僕であるキリストの体であり、キリストに従うものです。私たちはキリストに連なり、特に社会的不正義の重荷の下にある人々と共に、シャロームを宣言し、シャロームを生きます。私たちは、平和、正義、すべての人々の充たされた生が実現する、地域と世界の共同体創造のために一致して共に働きます。

2.地球規模での拡大するする<不安>

 1989年、平和に関する日米エキュメニカル協議会が開催されました。この時、私たちが太平洋地域における日米軍事協力に反対することを討議した時、新しい東西の冷戦状況が私たちの働きを規定するものとして強く働いていました。ベルリンの壁の崩壊は、戦争および戦争の準備を回避し、平和と繁栄を実現させる希望をもたらしました。ほぼ10年たった今、その約束は実現していません。

 冷戦における二局間対立は、多大な影響をもつ多くの中心と共に多局構造的世界を生みだしています。しかしながら、日米両国は、世界におけるふたつの経済大国として、強大な権力を行使し、アジア地域および世界において平和に対して大きな責任を担っています。いかにこの力が行使されるかによってその力が平和のために使われるか、またはただ単に支配と反対者を制圧するために使われるかが、決定されるのです。現在のこの力の行使は、私たちが希望を持つにはほど遠い状況になっています。

 アジアでは、紛争の平和的解決および集団的安全保障のための多国間にまたがるメカニズムが今日存在せず、協議されてもいない。その一方で、この地域における米国の一方的な軍事駐留はこれまでどおり大きくかつ支配的である。加えて、このほど発表された日米新ガイドラインは、平和憲法を露骨に踏みにじって、アジアのみならず世界各地において米国の軍事行動により幅広く日本を荷担させるおそれがある。これで自衛隊は世界のどこであっても米軍との共同行動がとれることとなった。民主主義をおびやかし、平和憲法に違反し、日本のみならずアジア全域を危険にさらし日本全体か防衛前線基地となった。こうした軍事的存在は、この地域の人々にとって安全を保障するものとはなってこなかった。逆に、アジアの人々に多大な不安をもたらしたのである。冷戦時代とは全く異なる要素がこの不安の要因となっている。

 今日、地球規模の経済的混乱は、何百万人もの人々の夢と希望をうち砕き、新しいレベルの不安と脅威とを生みだした。その一方で、急変する経済の力は、少数の限られた者たちに未曾有の富をもたらし、アジアの途上国の経済危機は地球希望のパニックの引き金となり、揺れ動く資本市場と通貨の切り下げによりほとんどの世界をかつてなかったほどの不安におとしいれた。数百万人におよぶ人々が危機的な飢えと失業に苦しみ、生き延びる何らの有効なすべも持ち合わせていない。日本、米国といった富める国々にあっても、経済的不安を紛れもなく示す材料が増大している。

 これに対し、IMFや世界銀行などの強力な国際金融機関が、構造調整プログラムを諸国の政府に押しつけているが、これは、国際的な銀行業者やエリート政治家を責任ある行動をとらなくてもいいように助けることはあっても、一般の人々にとっては、問題を処理する能力を奪うものである。政府の社会的支出を減らし、公営企業を民営化することへのIMFの圧力は、この危機を高めている。

 グローバル化の圧力は、民族的、宗教的紛争や、弱い立場に置かれた諸政府間の好戦的な国境紛争のような一連の危険な反動の原因となり、またそれを増大させている。これによって犠牲にされ、絶望的に貧しい状態に置かれた人々の抵抗を呼び起こし、社会内部での永続的な緊張はますます深刻になる。

 これらの緊張は、根本的な原因を取り除く方法を講じることが緊要である。しかしながら、これらの緊張に対し、武力を持って対処する必要があるという認識が、米国の戦略を正当化する第1の理由とされている。米国の「前線配備」戦略と、日本政府の協力は、経済的な脅威に対し、武力を優先して応じようとするものであり、それ故に私たちは、これを不適切かつ不当なものと非難しなければならない。この戦略の最も不適切な側面は、米国が主導し日本も関与している世界的な兵器輸出である。武力による対処と軍事予算の増大を正当化する理由として利用されている紛争そのものが、この無差別的な兵器の供給によって拡大され、不安定の悪循環をつくり出しているのである。

 軍事化によって生ずる安全の破壊が最も明白になっているのが沖縄である。そこでは、米国と日本の両政府により、人間と土地とが、大きな軍隊の存在から来る暴力の犠牲にされている。沖縄の現実は、より強いものの利益と力のために政治的に弱い立場に置かれた犠牲にされる人々と地域の運命を例示するものである。

 米国内においても、この軍隊配備を支えるために予算の優先的使い方がゆがめられ、政治的に最も弱い立場に置かれた地域や社会集団が犠牲にされている。人種差別と暴力の増大、教育の失敗、福祉政策の崩壊、社会資本の衰退などのすべてが、全体の福祉を犠牲にして軍事支出を優先させてきたゆがみの結果である。

 さらに、グローバル化が、社会的責任の束縛も国による充分な規制も受けない巨大個人資本の手ですすめられ、いたるところで、小規模農工業を破壊し、環境破壊を加速し、無権利状態にされた労働者の搾取を引き起こし、社会的目的のために使える税収を失わせ、また画一化されたグローバルなイメージをつくりだす企業によって文化が支配されている。このような不安定と疎外の原因は、民主的な責任ある政府の手で取り除かれねばならない。それは、軍事的な配備や軍事的手段では、取り除くことはできないのである。

 どの地域においても地球規模の力がたとえ経済的なものであれ、また軍事的なものであれ、その力の被害をもっとも強く受けるのは女性であり子どもであり、移住労働者の人々です。女性は軍隊によって性的暴力を受け、最も低い賃金で雇用され、世界の生産過程において、最も<いやしい>職業に就かされています。また彼女たちは家族単位で行われる農業をも維持できない孤立した地域において農業の矢面に立たされています。さらにこれらの不安と圧力にもかかわらず、彼女たちは継続的に子どもの世話と家事の責任の大半をおわされています。子どもたちは教育の機会を奪われ、最も安く弱い立場にある労働力として使われています。経済的な雇用の機会がないことから自国を逃れていく移住労働者の人たちは外国の地において自分たちには法的地位と保護がなく、搾取の対象でしかないことを経験しています。

3.安全と平和の主要素

 安全は、すべての人々に関することがらであり、本の少数の人々のためのものではありません。すべての人々は自分がどこに所属するかを感じ取る必要があり、自分の生涯を形成することに参加することが必要です。

 安全とは経済正義です。それは、世界の富の公正な分配と莫大な債務を抱える国々の債務が免責されることを意味します。債権国の政府、銀行などの説明責任が、財政的腐敗を防ぐために大変重要である一方、同様な説明責任が最も収奪され無力化されている者(最も小さき者)に対してさらに重要です。

責任をもつことはさらに重要なことです。安全とは、すべての人たちが生存のための経済的手段、教育、雇用、保健サービス、適切な住環境、にアクセスすることが保障されていることです。そしてまた、安全は人を食い物にする搾取から、これらの権利を守るために必要な法的な枠組をつくり出すことを意味しています。

 安全とは、すべての人が暴力から守られ、自由であることです。それは、非軍事化、核兵器の廃絶、軍事産業の平和目的への転用、軍の指揮権の文民統制、軍事同盟代わる平和のための同盟、紛争解決における一元支配に代わる多元的協力を含みます。

 安全と平和は、文化の多様性や民族的宗教的違いの尊重、多様な人々の間での開かれたわかちあいや交流と不可分です。それはまた、女性があらゆる社会的民主的手続きやあらゆる社会上の利益に、平等に預かることをも意味します。

 地上の安全と平和は、環境のは快適汚染や、地球の温暖化や核兵器の実験、生物の多様性の創出、遺伝子操作などを含みます。大地が安全でなければ、人々も安全であることはできません。

4.米国と日本政府への勧告

 私たちは、日本と米国のNCCおよびそれぞれの加盟教会と団体に対して、以下の政策に関して各自の政府に適切なかたちで提言し、そのために活動することを奨励します。

1)米国の軍事行動に日本をますます巻き込むことになる新ガイドラインに反対すること。日本の平和憲法を充分に尊重する両国間の協力のために、ガイドラインを再定義することが必要です。

2)「おもいやり予算」を含む日本国内の米国軍事施設を支援する日本の予算措置および多の地域における米国の軍事作戦支援(たとえば湾岸戦争時のイラク)を中止すること。

3)日本における米国軍部による私的公共、民間施設の使用を拒否すること。

4)1998年秋の国会での緊急有事立法に反対すること。

5)アジア太平洋非核地域を宣言し、そのために活動すること。

6)54年間におよぶ軍事的占領から、沖縄の人々を解放すること。

7)最近、軍事利用に供された土地に対する沖縄住民の権利を支援すること。

8)すべての市民の人権を尊重することを強く要請すること。

9)アジアにおける日本の歴史的役割の教科書における間違った描写を訂正することを勧告すること。

10)朝鮮民主主義人民共和国との関係正常化を強く要請すること。

11)従軍「慰安婦」への日本政府の公式謝罪と補償を要求すること。

12)沖縄および日本全国における米軍基地の縮小と撤退を働きかけること。

NCC−URMドキュメントリスト