東京高等裁判所刑事第四部
裁判長 高木俊夫 殿 

狭山事件の再審開始を求める要請書

はじめに

私たち日本キリスト協議会は、日本にある33のプロテスタント教派・団体からなるキリスト教の協議会として、あらゆる差別に反対し、正義・平和・人権のための取り組みを続けてきました。1976年からは常設の委員会として部落差別問題委員会を設け、なかでも高木裁判長が担当されている狭山事件については、委員会設置当初から部落差別に基づく冤罪事件として、重大な関心を持って再審開始にむけた活動を続けてきました。

早急な事実調べを

 さて、狭山事件が発生してからすでに35年が経過しています。事件当時、捜査に行き詰まった警察が行った近隣の被差別部落への見込み捜査・別件逮捕と、1ヶ月にもおよぶ代用監獄での取り調べで強要されたうその自白によって、石川一雄さんは中田善枝さん殺しの犯人とされました。当時24歳であった石川一雄さんも、31年間獄中生活を経て、はや還暦の声を聞こうとしています。

 この間、1964年には一審で死刑判決が下され、二審の東京高裁による無期懲役判決を経て、1977年に無期懲役刑が確定しました。その後出された第一次再審請求はまったく事実調べもなされないまま棄却され、1986年に申し立てた第二次再審請求も、現在に至るまで事実調べがなされないまま12年間が経過しています。12年間も裁判所が何の決定も下さないというこの事態は、市民の裁判を受ける権利を侵害しているといって過言ではありません。

狭山事件の弁護団は、第二次再審請求以降も、脅迫状の筆跡は石川さんのものでないことを証明するなど、数多くの新証拠を提出し、石川さんの無罪を証明しています。これらの証拠にもとづいて、一日も早く証人尋問や現場検証などの事実調べを開始して下さるよう、私たちは要望します。

全証拠の開示を求めます

裁判において、弁護側が必要な証拠の開示を受けることが出来ることは、国際的にも当然のこととされていますし、日本政府も自由権規約第4回日本政府報告書において「なるべく速やかに閲覧する機会を与えることとされている」と、公判における証拠開示は保障されていると述べています。

 しかしながら狭山事件においては、東京高検が証拠リストや未開示の証拠があることを認めているにもかかわらず、証拠リストが明らかにされていないために証拠物件の特定が出来ず、事実上必要な証拠の開示が受けられていません。

先に触れた自由権規約第4回日本政府報告書を審議する規約人権委員会では、この点について、証拠開示がなされていない具体例として狭山事件をあげるなどして、以下のように勧告し、日本においてこれらの権利が充分守られていないことを批判しています。

 「弁護側が公判のすべての手順において、そのような証拠資料を請求できる一般的な権利が存在していないことに関して懸念する。」「防禦に関する権利が阻害されることなく関係資料の全てを弁護側が入手できるよう、締約国が法律や実務によって保障することを勧告する。」

こうした批判に応えるためにも、東京高検に対し、証拠リストを含めて、保持している全ての証拠の開示を勧告して下さるよう要請します。

一日も早い再審開始決定を

 日本キリスト教協議会は、日本にあるキリスト教会の共通の深い関心として、狭山事件の再審の道が一日も早く開かれるべきであると確信します。この事件の真相が明らかになることにより、石川一雄さんの見えない手錠が解かれ、冤罪によって失われた名誉が回復されること、そして日本の裁判制度が、こうした冤罪を生まないシステムに改められることを切望します。

裁判所が、この狭山事件が部落差別にもとづく冤罪事件であるという事実を受けとめ、一日も早く「事実調べ」と東京高検への「証拠開示」の勧告、そして再審の開始を決定して下さるよう、第33総会期第8回常議員会(1999年1月21日)の決議をもって要請します。

    1999年2月24日

日本キリスト教協議会 議長 徳善義和

加盟教団:

日本基督教団
日本聖公会
日本福音ルーテル教会
日本バプテスト連盟
日本バプテスト同盟
在日大韓基督教会
加盟団体:
日本YMCA同盟
日本YWCA
日本キリスト教婦人矯風会
日本聖書協会
日本基督教文化協会
日本キリスト教保育連盟
日本キリスト者医科連盟
キリスト教視聴覚センター


東京高等検察庁 御中

狭山事件に関する全証拠開示を求める要請書

はじめに

私たち日本キリスト協議会は、日本にある33のプロテスタント教派・団体からなるキリスト教の協議会として、あらゆる差別に反対し、正義・平和・人権のための取り組みを続けてきました。1976年からは常設の委員会として部落差別問題委員会を設け、なかでも狭山事件については、委員会設置当初から部落差別に基づく冤罪事件として、重大な関心を持って再審開始にむけた活動を続けてきました。

証拠開示は市民の権利

 東京高等検察庁に対しても、これまで繰り返し狭山事件関係証拠の開示を要請してきましたが、今日に至るまで、証拠の全標目を記載した証拠のリストをはじめ、捜査過程での重要な証拠が明らかにされていません。昨年9月8日に行われた検察官と狭山弁護団との折衝において、東京高等検察庁の會田正和検事は、まだ開示していない証拠書類などが多数あること、証拠のリストの存在を認められたとのことです。この証拠のリストが弁護側に明らかにされていないため、弁護側は検察側の保持する文書名を特定した証拠開示の請求ができず、長い間弁護側は、事実上必要な証拠の開示を受けられない状態にあります。検察では、証拠開示拒否の理由として「プライバシーの保護」「捜査協力の確保」をあげておられますが、ひとりの人間の無実を証明するかもしれない証拠を、30年にもわたってこうした理由だけで拒否することは到底認められません。

いうまでもなく、警察の捜査や情報収集が市民の税金を用いてなされるものである以上、それらは事実を明らかにするための裁判を受ける全ての人々に帰属すべきものです。公正な裁判は、捜査の段階で集められた全証拠の下で行われるべきであり、検察側に有利な一部の証拠によって裁かれるとすれば、裁かれる人の人権の観点から大いに問題があるといえます。

国際世論に耳を傾けよ

裁判において、弁護側が必要な証拠の開示を受けることが出来ることは、国際的にも当然のこととされていますし、日本政府も国連自由権規約第4回日本政府報告書において「なるべく速やかに閲覧する機会を与えることとされている」と、公判における証拠開示は保障されていると述べています。しかしながら狭山事件においては、上記のように、事実上必要な証拠の開示が受けられていません。

先に触れた日本政府報告書を審議する国連規約人権委員会では、この点について、証拠開示がなされていない具体例として狭山事件をあげるなどして、以下のように政府に勧告し、日本においてこれらの権利が充分守られていないことを批判しています。

 −国連・規約人権委員会最終見解(抜粋)−

    委員会は、刑事法において、検察には、公判に提出する予定のものを除いて、捜査の過程で収集された証拠を開示する義務はなく、弁護側が手続きのいかなる段階においても、資料の開示を求める一般的な権利を有しないことに懸念を有する。委員会は、規約第14条3項に規定された保障に従い、締約国が防御権が阻害されることのないように、関係資料の全てを弁護側が入手することが可能となる状態を法律や実務によって確保することを勧告する。

日本の検察は、こうした批判に誠実に耳を傾け、制度の改善に取り組む必要があります。

一日も早い全証拠の開示を

 日本キリスト教協議会は、日本にあるキリスト教会の共通の深い関心として、狭山事件の再審の道が一日も早く開かれるべきであると確信します。この事件の真相が明らかになることにより、石川一雄さんの見えない手錠が解かれ、冤罪によって失われた名誉が回復されること、そして日本の裁判制度が、こうした冤罪を生まないシステムに改められることを切望します。

狭山事件において、一日も早く公正な裁判が行われるために、現在東京高検が保持する、証拠リストを含めた全ての証拠の開示を早急に行われますことを、第33総会期第8回常議員会(1999年1月21日)の決議をもって要請します。

1999年2月24日

日本キリスト教協議会 議長 徳善義和

加盟教団:

日本基督教団
日本聖公会
日本福音ルーテル教会
日本バプテスト連盟
日本バプテスト同盟
在日大韓基督教会
加盟団体:
日本YMCA同盟
日本YWCA
日本キリスト教婦人矯風会
日本聖書協会
日本基督教文化協会
日本キリスト教保育連盟
日本キリスト者医科連盟
キリスト教視聴覚センター

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