青丘文庫月報・160号・2001月6月1日

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●青丘文庫研究会のご案内●

第198回 朝鮮近現代史研究会
6月10日(日)午後1〜3時
テーマ: 「済州4・3と平和公園造成」
報告者:趙 誠 倫

第229回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
6月10日(日)午後3〜5時
テーマ:「韓国と日本の法体系の比較」
報告者:朴 洪 圭
会場:青丘文庫(神戸市立中央図書館内)

巻頭エッセー
九大韓国研究センターについて  出水 薫

 地道に資料を蓄積する。それを公開する。研究会を組織し運営する。青丘文庫は、そのことによって、朝鮮史研究に大きな貢献をしてきました。しかしそれは簡単なことではありません。私自身が九大の「韓国研究センター」の運営に関わりはじめて、あらためて青丘文庫が積み上げてきたことの大変さを実感しています。以下「宣伝」めいて恐縮ですが、九大の韓国研究センターについて若干、紹介させてもらいます。
 ことの発端は韓国国際交流財団が九大を日本における韓国研究の拠点施設と位置づけたことにはじまります。1999年7月に、九大に対する5年間の研究・教育支援についての協定が、韓国国際交流財団との間で結ばれました。そこで九大は学内の韓国関連研究者のネットワークをつくるべく、同年12月にセンターを学内施設として設置したのです。2000年1月には留学生センターの横に、プレハブ2階建ての施設も新設しました。
 名称は「韓国研究センター」ですが、研究の対象は韓国(大韓民国)に限定されません。センターが目指すのは、朝鮮半島の南北双方はもとより、ロシアや中国の朝鮮族、在日をも視野に入れた「韓国・朝鮮学(Korean Studies)」の確立です。現在のところ具体的なセンターの活動の柱は、協定にもとづくプログラムの実施です。この2年足らずの成果については、http://rcks.isc.kyushu-u.ac.jp/で紹介されています。また今年の3月には『年報』と『ニュースレター』が創刊されました。
 今年度は、定例的な研究会の実施と、市民向けの講座の開講という新規事業をおこなうことがセンターの課題です。冒頭に述べたように青丘文庫の活動は、まさにその点で「お手本」です。まだ試行錯誤の連続ですが、じっくりと育てていきたいと考えています、いずれは青丘文庫と肩をならべられるように…。

第196回 朝鮮近現代史研究会
2001年4月8日
「コミンテルンの朝鮮共産党承認をめぐって―コミンテルン文書による考察―」
水野 直樹

1925年4月に結成された朝鮮共産党は、コミンテルンの支部としての承認を翌26年3月に得たが、承認にいたる詳しい経緯はこれまで知られていなかった。しかし、モスクワのロシア国立社会政治史文書館(旧ソ連共産党文書館)に保管されているコミンテルン文書が公開されたため、コミンテルンと朝鮮との関わりを詳細に研究することができるようになった。今回の報告では、1920年代半ばの朝鮮に対するコミンテルンの政策、朝鮮共産党承認の経緯と承認に際してのコミンテルンの認識などを検討する。
 コミンテルンが朝鮮内の共産主義運動・社会運動に関する方針を示し始めたのは、1924年前半のことである。東洋部の指導者ヴォイチンスキーが同年2月に起草した「朝鮮民族運動に関するテーゼ」、ほぼ同じ時期にコミンテルン執行委員会で採択された朝鮮問題に関する「決議」などの文書が見られる。これらにおいては、共産主義者が朝鮮の階級運動において影響力を強めること、それと同時に「親日的ブルジョア組織」と闘いながら「民族革命闘争の統一戦線」を形成すべきことなどが強調された。
 1925年4月結成された朝鮮共産党は、このようなコミンテルンの方針を受けたものであるが、民族統一戦線に関する方針は明確ではなかった。朝鮮共産党が承認を求めたのに対して、コミンテルン執行委員会は9月に「決議」を採択して、承認についてはしばらく保留すること、朝鮮の共産主義諸組織は民族解放闘争を前面に押し出すべきこと、「中国国民党の形式にならって民族革命党を形成する」必要があることなどを指摘した。また、間島を除く中国やロシアに居住する朝鮮共産主義グループは在住国の共産党に加入すべきであるとしたことが注目される点である。
 朝共代表としてモスクワに派遣された趙ドンホは、コミンテルンの「決議」を受けて、朝共の方針を修正する一方で、支部としての承認を強く求めた。しかし、同じ時期モスクワには朝共とは異なるいくつかのグループから派遣された朝鮮人共産主義者も来ており、彼らもコミンテルンに対して多くの文書を提出していたため、朝共承認は遅れることになった。
 コミンテルン東洋部およびその下に設けられた朝鮮委員会での議論をたどると、コミンテルンの側が分派に対して相当神経を使っていたことがわかる。朝共を承認するに際してコミンテルン執行委員会が採択した決議では、朝共に反対しない限りにおいて他の共産主義グループをコミンテルンを支持する組織と認める、という内容が含まれている。これは分派に対する大きな譲歩であったと言わざるを得ない。
 コミンテルンの朝共承認はこれまで考えられてきた以上に複雑な問題をはらむものである。しかし、それと同時に民族統一戦線の方針が確実に朝鮮内に伝えられることになった点も、見落とすべきでない。
(追記)詳細は、拙稿「コミンテルンの朝鮮共産党承認をめぐって」『青丘学術論集』第18集、2001年3月、を参照されたい。

第229回 在日朝鮮人運動史研究会関西部会
2001年4月8日(日)
指紋押捺制度と在日朝鮮人の人権 金隆明

戦後の在日朝鮮人の人権をテーマに、外国人管理政策の象徴といわれる指紋押捺制度に焦点を当て、指紋制度の成立から廃止までをみていくことで、在日と日本社会との関係を考察し、これからの双方の関係を良くしていくにはどうしていくべきなのか、というのを自分なりに考えてみました。
 1945年〜52年のGHQ占領期に外国人政策は基礎を固めていったわけですが、そうした外国人政策の主な対象として考えられていた朝鮮人を、日本政府は治安管理対象として認識していました。そのため犯罪捜査で効力を発揮する指紋を採るということを、外国人登録の際にも行なうことを決め、52年に定められた外国人登録法の第14条に指紋押捺制度が導入されることになりました。
 日本政府は指紋制度は、外国人は身分関係が明確でないので、同一人性を確認するために必要である、という立場で数次にわたる外国人登録法の改正にも、指紋制度に関して消極的な改正しかしませんでした。
 しかし1980年代に入って盛んになってきた制度の対象者である朝鮮人を中心とした在日外国人の指紋押捺拒否という日本社会への働きかけによって、その状況は変わってきます。拒否者の動きは、日本人自身が在日外国人問題を自分たちの問題として考えるきっかけを与え、日本人との連帯を喚起し、全国的な社会運動へと発展していきました。そして、93年1月に施行された改正外国人登録法によって廃止されることになります。
 約40年間続いた指紋制度が廃止に至った要因としては、在日朝鮮人の世代交代による民族意識の変化と定住化傾向の強まり、日本人の人権意識の高まり、そして先述した指紋押捺拒否運動を通しての在日外国人と日本人との歩み寄り、ということが考えられます。
 そして、この歩み寄りを可能にしたことが指紋押捺拒否運動の意義であり、拒否運動が日本人との連帯を生んだのには、運動の過程で対等な人間関係が成立していったからではないかと思います。
 在日と日本社会との関係をより良くしていくには、指紋押捺拒否者にならって、人間として、在日として、普通に生きていけばいいのではないだろうか、というのが僕の卒論での結論でした。

【今後の研究会の予定】

2001年7月11 日(日)、9月16日(日)
10月14日(日)、11月11日(日)、12月9日(日)

月報の巻頭エッセー

2001年7月号(姜在彦)、以降、浅田、金森、金慶海、坂本、伊地知、田部、飛田、李昇Y、本間、藤永、佐野、梁永厚、文貞愛、藤井幸之助、金河元、高木、森川。
※締め切りは前月の15日です。よろしくお願いします。

編集後記

・そろそろ梅雨にはいってしまいそうな、今日このごろです。いかがお過ごしでしょうか。6月の研究会はお二人のゲストを迎えます。趙先生は、済州大学から天理大学へ、朴先生は嶺南大学から神戸大学にそれぞれ客員教授として来られています。奮ってご参加ください。研究会終了後はいつもの通りJR神戸駅前の「平衛六(ヘイロク)」で交流会をします。遅刻の方は直接そちらへ‥‥?
・研究会の会員証を申し込まれていた方には、6月の研究会の時にお渡しします。欠席の方には7月号の月報発送の時にお送りいたします。
・教科書問題をテーマにして、朝鮮史セミナー「『つくる会』の教科書を総点検する」(7月13日<金>午後6時30分、神戸学生青年センター)を開きます。講師は藤永壮さんです。是非ご参加ください。
・飛田は、6月15日〜22日、学生センター主催のツアーで初めて朝鮮民主主義人民共和国を訪問します。瀋陽経由で空路ピョンヤンへ、帰路は、列車で瀋陽そして関空です。
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(飛田雄一 rokko@po.hyogo-iic.ne.jp)

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