むくげ通信203号/2004年3月

書評A<副読本>

神戸港における戦時下朝鮮人・中国人強制連行を調査する会編・発行
(執筆・宮内陽子)
アジア・太平洋戦争と神戸港―朝鮮人・中国人・連合国軍捕虜―

 中学生を中心に小学校高学年から高校生にまで読んでもらえる副読本づくりというのは、困難な作業である。高度な内容を平易に叙述しなければならないということが条件となるのは、副読本にかぎらないだろう。しかし、副読本の場合、読み手が本を選択できないから、条件は忠実に守られなければならない。

 さて、世の中には、切り捨てられたり隠されたり、埋もれて人々の目に入らなかった重要な事実がある。本書は、純真な心の持ち主である生徒たちにこそ知ってもらいたい本来身近かであるべき事実を、なんとしとしても叙述しなければならない使命をもって書かれた。しかも内容の性格上、人名や地名や「強制連行」といったテクニカルタームを、漢字で表記せざるを得ないケースが当然に多くなる。

 しかし本書は、「会」のメンバーその他多くの方々の協力もいただいて集められた豊富な写真と証言に恵まれた。なによりも、本書にとってもっともふさわしい著者を得て、簡潔で用を得た叙述が、丁寧な注とともに生徒たちの理解を助けてくれるはずだ。

 ところで近年、日本が第二次世界大戦で世界を相手に戦争を行ったことはどの生徒も知っているが、ヨーロッパ諸国や、とりわけ米国が「主敵」であったことの認識が生徒たちに希薄になってきている。「鬼畜米英」なんて語は、歴史的にも死語である。ジョン・レイン氏とジョン・グラスマン氏の証言が貴重なものであり、生徒たちの歴史認識を高めてくれるにちがいない。

 最後に、内容の性格上漢字が多いので、小学生や中学低学年の生徒にはいささか難しいかもしれない。しかし本書は、忙しい大人たちにとってもまことに手軽ですぐれた入門書になり得るのではないか。

2004.2.15、B4、32頁、定価840円、発売・みずのわ出版】(徳富幹生)